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Day5-4

しばらくすると珠希は定位置に戻り、志乃は再び2人のマシンガントークに圧倒されることになった。 軽い気持ちで来た『Belva』で、まさかこんなことになるとは思いもしなかった。 少しでも早く彼に会いたいという気持ちが裏目に出てしまったと、今更になって後悔していた。 それでも心のどこかでは、こうして旧友に会えることを嬉しく思っている自分もいるのだ。 テーブルの上に置かれたおつまみセットに手を伸ばし、ミックスナッツを頬張る。 ちらりと珠希の方を見ると、何やら他のスタッフと真面目な話をしているようだった。 「何々、僕がいない間に盛り上がってるね」 ぼんやりとその姿を眺めていると、不意に聞き覚えのある声が聞こえてくる。 「ヒロちゃん。おかえり」 「誰か増えて‥る」 マコトに“ヒロちゃん”と呼ばれた男は、VIP席の前に立つと少しばかり顔を強張らせるが、それは志乃もまた同様だった。 「志乃ちゃん、覚えてるでしょ?トイレのとこでばったり会って、連れて来ちゃった」 マコトはそんな2人の様子に気づいていないようで、あっけらかんとした口調で言う。 立ち尽くしている男の手をアキが軽く引き、隣へと座らせた。 「‥久しぶり」 「志乃くん‥。久しぶりだね」 おずおずと口を開き、いつも通りに笑ってみせる。 すると“ヒロちゃん”もすぐに、見覚えのある笑顔でそう言った。 「‥シャンパン、注ぎ直しましょうか」 2人の間に微妙な空気が流れているのを察したのか、ただの仕事の一環としてなのかは分からない。 それでも、志乃は珠希の声に救われたような気持ちになった。 「あぁ‥うん。ありがと」 “ヒロちゃん”がそう答えると、慣れた手つきでさっきまで使っていたであろうグラスを下げ、新しいグラスにシャンパンを注いでいく。 そんな時間もすぐに過ぎ去ってしまい、再び気まずい時間が訪れた。 男は注がれたシャンパンを半分近く飲み干し、おもむろに煙草に火をつける。 「やだちょっと、マコト。あの子すっごい可愛い」 次に口を開いたのは、事情を知っているであろうアキだった。 「え‥どぉしたのママ。ちょっ‥」 「せっかくVIP開けてるのに華が足りないんじゃ勿体ないじゃないっ」 「もうっ、だからって僕まで連れてかなくても‥」 嵐のようにマコトをフロアへと連れ去り、席には2人だけが残された。 彼がアキのいなくなったスペースを詰めるように座り直すと、懐かしい煙草の匂いが漂ってくる。 ナッツの塩がついた指先をおしぼりで拭きながら、志乃は口を開いた。 「あれから、元気にしてた?」 「まぁぼちぼちってとこかな‥」 「急にブロックしたりして‥ごめんね」 「何言ってんの。ただのセフレだったんだから、そんなこと気にしなくていいのに」 暗がりの中で、火のついた煙草の先端だけが赤く灯っている。 ちらりと横目で顔を見ると、どこか寂しそうな笑顔を浮かべていることが分かった。 あの頃、マコトに言わせれば“有名”だった頃は、他人の痛みなんて気にも留めなかった。 退屈を埋めるように求められれば応じて、飽きたら捨てて_その繰り返しだった。 「相変わらず優しいね。志乃くんは」 嫌味のないその言葉に、ずきりと心臓が痛む。 こんな自分の、どこが優しいって言うんだ。 ただのクズだった頃の俺を、今更になって許してもらおうだなんて。 「そんなこと‥ないよ」 彼に聞こえないくらいの声でぽつりと呟くと、ズボンのポケットの中でスマホが小さく振動する。 『今日は優しくする余裕ないかもしれないです』 画面を確認すると、そこには珠希からのメッセージが表示されていた。 慌てて顔を上げ、スタッフが立っている場所を確認するも、そこに居たのは彼ではなかった。 00:05と示された時刻から、シフトが終わったのであろうことを悟る。 『それでもいいなら、終電までに駅前の高架下に来てください』 続けて送られてきたメッセージに、ごくりと唾を飲んだ。 また、選ばされる。 来いと言われればすぐにでも駆けつけるのに、決してそうとは言わない。 選択肢を与えられ、選ぶのは俺だ。 それでも彼は、いつだってその答えを知っている。

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