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隨ャ荳?ゥア
怪異を囲ってからというもの、俺は狂ったように奴と体を重ねた。
決して他のだれかに魅入らないように。
というのは建前で、俺自身がその行為にのめりこんでいるだけかもしれない。
それでも、身銭は稼がなくてはならないので、日々本を書きつつ、都市伝説系の雑誌のコラムや怪談のアンソロジーの記事なんかを書いていた。
ある日、懇意にしている雑誌の編集者から「祓うことを専業にしているお坊さんとの対談を取材させてほしい」という依頼をもらった。
祓うことを専業にしている…?
不思議に思って訊くと、彼は「そのお坊さんは檀家などを持たず、人を弔うことではなく祓うことだけで生計を立てている」らしい。
「なるほど、面白いですね。いいですよ」と答えながらも、内心ではどうせインチキだろうと思った。
霊も怪異も信じている。
実際にうちにいるし。
だが、霊媒師だの祓魔師だのといった類の人間は信用していない。
霊や怪異は、人間が介入できないからこその存在なのだ。
接触したり、降霊させたりはできても、存在を消すことなどできるわけがない。
それから日程やスケジュールを調整し、1か月後に編集社の会議室を使うことになった。
怪異がいるこの家を空けるのは不安だが、仕事のためだから仕方ないと割り切ることにした。
前夜、俺は”離れなくてはならないから”と理由をつけて、いつも以上にしっかりと奴の精を搾り取った。
ぐったりとした彼に口づけ、隣に寝転ぶ。
明日は仕事が終わったら直帰しようと決心しながら眠りについた。
翌朝、久々に身支度をして外に出る。
田舎といえど、アマ〇ンは届くし、たまにスーパーやコンビニに行くくらいで事足りるので滅多に、寝癖を直して余所行きの服を着て出かける、なんてことはない。
打ち合わせも全部リモートだ。
都内に向かって公共交通機関を乗り継ぐことすら、今は煩わしかった。
編集社の会議室に案内されると「お久しぶりですね~」と担当さんが声をかけてきた。
坊主はまだ到着していないらしい。
「お久しぶりって…、こないだもリモートで会議したじゃないですか」と俺が言うと、
「いやいや。
さすがにリモートと対面じゃ全然違いますよ。
菱本先生、全然会社に来てくれないんですもん。
売れっ子の作家さんのためならいくらでも会議室なんて取れますから、いつでも来てくださいよ」と返される。
「そんなに用事ないんですけど」
「そんなぁ、冷たいですね。
過去の雑誌のバックナンバーとかもあるんで、遊びに来てください」
「ああ、まあ、いけたら…」
「絶対来ない奴じゃないですか。
あ、でも菱本先生は今、N県の片田舎に住んでるんですもんね。
来るの大変ですよね」
「ええ、そうですね。
なのでリモートは大変有り難いです」
「でも、先生って生まれも育ちも東京のシティボーイですよね?
よくそんな田舎に住んで、都会に戻りたくならないですね」
まあ、八尺様がいるんで、とは言えず、俺は笑って曖昧に濁しておく。
そんな世間話をしていると、ドアがノックされて袈裟を着た男が入ってきた。
「あ、衙門 さん、こんにちは。
衙門さんも遠いところありがとうございます」と先に担当が頭を下げる。
「いえいえ、私から依頼したことですし、ちょうど本業のほうで都内に出ていたものですから」と男は物腰柔らかく答えた。
坊主と聞いていたからてっきり頭を丸めていると思ったけれど、服装は袈裟だが髪型はよくある無造作ヘアーだった。
年も俺とそんなに変わらないように見える。
坊主が担当者と一言二言交わし、視線が俺に向く。
その瞬間、柔和だった彼に表情が一瞬真顔になった。
俺も無言で見つめ返す。
数秒…、1秒かそれとも5秒か…、とにかく間が開いた。
すっと坊主の顔がまた笑顔に戻り「あなたが噂の菱本先生ですか?」と問われた。
俺もつられて口角を上げ「ええ、よろしくお願いします」とにこやかに返した。
そこからは担当者や編集社の取材陣が先導して、無事、雑誌に載る部分の対談は終了した。
「いやぁ、やっぱり売れっ子作家とお祓い専業のお坊さんの対談って面白いっすね~。
とってもいい記事になりそうです!」
と、担当者は嬉しそうだ。
「私が言い出したことですし、菱本さんも呼んだ上、交通費も出してもらいましたから、良いものになってホッとしてますよ」と坊主も人当たりの良い顔で笑う。
「ところで、菱本先生の書いた記事を拝見しましたが…、どこまでが実体験なんですか?」
ふいに坊主にそう訊かれ、俺は一瞬言葉に詰まった。
「い、いやいや。
すべてフィクションですよ」
いつもなんてことなく答えている言葉が今日ばかりは震えた。
「ほぅ…、そうですかそうですか」
坊主は意味深な表情でうなずく。
なんなんだこいつは。
インチキのお祓いをしている坊主じゃないのか?
「そういえばそろそろお昼ですが…、菱本先生、よかったらどうですか?
私はあまり都内は詳しくないので…、先生が案内してくださったら心強いです」
さっさと帰ろうとしていた俺は「え…」と躊躇う。
なんだかこいつを見ていると妙な胸騒ぎがするし、飯を食うなんて嫌なんだけれど。
「えっ!それはこちらとしても有難いなぁ。
我々はこの後も取材で…、お食事代は請求してもらえばこっちで持つので、菱本先生が衙門さんを案内してもらえると助かります」
そんなことを言われて断れるわけがない。
「俺、別にそんなにお店とか詳しくないですよ」と言いつつ、俺はしぶしぶ坊主と連れ立って歩きだした。
衙門と呼ばれた坊主はよくしゃべる気さくな人で「おいくつなんですか」とか「N県の片田舎ってどんな感じですか」とかとにかく質問されたし、答えるたびに「私はね…」と自己開示もしてくる。
おかげで店に向かう10~20分の間に、相手の基本的な情報は知ることができた。
俺より2つ年上の30歳で家は北関東にあるが、お祓いで方々 に行くので最後に帰ったのは1~2か月前とのことだ。
俺も気になっていた”お祓いが専業の住職”について聞いておく。
彼は「幼少期に怪異にとり憑かれたことがあって、それから祓うことに興味を持ったんです。俺と同じように苦しんでいる人間を救いたいって気持ちで今も続けてます。檀家を持つよりもうんと儲からないんですけどね」と頭を掻きながら言った。
店に入り、俺は生姜焼き定食、彼はラーメンに半チャーハンを注文した。
味はそこそこいいのに、立地のせいか平日の昼間というのに会社員のような客が数人しかいないこの定食屋は、陰キャの俺には最高の店だった。
「落ち着いて話せるいい店ですね」と衙門さんも気に入ったようだ。
「ところで…、菱本先生はなぜそんなもの を飼っているんですか?」
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