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第10話
「わり、それ買う?」
水色の髪の男は、悪気のない綺麗な目玉を俺の目に合わせて、小首を傾げた。
「…」
いや、買わないけど、今これが読みたいだけで。
その言葉は、真っ直ぐ、口から飛び出してくれない。
「…」
しかし、黙っていては、伝わらない。
何となく、苦手意識が膨らんで、俺は、つい、水色の髪の男から目を逸らし、掴んでいる本を、
「…、あっ」
右方に流す。
男とは、反対側に。
「、おめぇ、…。」
男は、そこで漸く、俺に怪訝な表情を向ける。
俺は、フン、と無視しながら、本を開いた。
本の内容を、その文字列を、ツラツラと、脳が理解する。
もう、男の方なんて見る事すら考えなかったんだけど…、…。
「おい。立ち読みより買う側が優先だろ。」
パッ、と俺の手元から、その本が奪われる。
「あ」
俺は、つい、そんな声を上げながら、手元に向けた目を、また、水色の髪の男に向ける。
「…」
「…」
まだ俺を見ていたようで、両者共に口を閉ざして両目を見やる。
時間が進む。言葉のやり取りは、ない。
「…」
段々と、心の中がモヤモヤしてくる。
だって、だってね。
「買って読むなら家でも読めるじゃん。買わないから俺、立ち読みしかできないよ」
だよ?
男に向ける目は、今だに冷めているまま。
「は?買って読むのが常識だろ。それじゃあ、まるで、盗人みてぇじゃん。」
男は、片眉を上げて、攻撃でもしてきているような言葉遣いをする。
「盗人?なんで。みんな読んでるのに。」
「何のために商品棚に陳列されてんだよ。」
「俺が読む為じゃないの」
「何でお前だけだよ。俺も読みてんだわ。」
「…順番で良いじゃん」
「何で立って待っとかなきゃなんだよ。買えば寮でゴロゴロ読めるのに!」
「俺もゴロゴロしたいけど立って読んでんだよ。」
「何で。?」
「金ないから」
「、……。」
男は、口を閉ざした。
まだ、文句ありそうに、その表情を曇らせているけれど。
でもさぁ、俺は、お前みたいな金持ちじゃないんだよ。
譲ってくれても良いじゃないか。
そうだろ。
そうに違いない。
違いないんだよ、うん。
「分かったらどっか行きなよ。俺の居ない場所に。」
どうせ、お前も俺が嫌でそんな腐った顔してるんなら、待つ間でも駐車場で座っときゃ良いじゃん。
そんなにゴロゴロしたいんならね。とか。
「…」
なんか、俺まで嫌になってきた。
何で、俺が、卑屈な思考をしなければならないのか。
ただ、本を読んで暇潰ししたいだけなのに。
この男のせいで、台無しだ。
嫌になってきた。
本当に嫌になってきた。
「……。そんなに、これが読みたいの?」
仕方ない。
寮に戻って寝る事にしよう。
「…。うん、そーだけど。」
背丈が高いくせに、何だか、しおらしくなりやがって。
素直は、良いね。
可愛い要素だからね。
だから友達が出来るんだろうね。
卑屈な俺とは違うから。
「分かった。じゃあ買いな?それのが店にとっては良いだろうし。だるいから俺は、もう帰る」
今の俺は、ツンとしているだろう。
そんな気持ちのままに、男のそばを通り抜けるつもりで、足を踏み出した。
「…、」
じゃあ、腕を掴まれる。
何だ、こら。
「何。?」
また、眉間に皺を寄せて、男に目を合わせる。
今度は、何を言われるのか。
俺の態度に腹でも立てたか?
やんのかコラ。
やったるぞオラ。
そんな気持ちのまま、男の口が開かれるまで、悶々と苛立ちを募らせていた。
けれど。
「俺が買うから、おめぇも俺ん部屋、来る?」
予想とは、大分、違った言葉が返ってきて、
「………、」
俺は、思わず、目を丸くさせた。
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