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第23話

一人の時間が、久しぶりにやってくると、息抜きになるような、静かすぎて寂しさが目立つような、不思議な気持ちになる。 美智留の連絡先は、知っている。 けれど、先程は、長々と語ったので、何も、心残りがない。 だから、LINEを開いて、プロフィール写真を見るだけ。 俺は、真っ黒にしているけれど、美智留は、自撮りっぽい、水色の髪だから今に近い時の笑顔の写真をプロフィール写真に設定している。 「…」 見やすい顔。 多分、塩顔。 色白だし、ソースらしさがない。 あっさり。してる。 喋るにも、そんな感じだけど。 「……」 見やすいな。 ほんと。 思い始めたら、何か、送りつけたくなるような気も、しないでもない。 だから、トーク画面を開き、無料で使えるスタンプを一つ、送り付ける。 ウルウル。 そんな絵文字とよく似た、白いキャラクターのスタンプだ。 「…、」 画面を消して、待っていれば、LINEの通知が鳴る。 「…ふ」 思わず、笑った。 宛名が、美智留だったから。 「…」 今度は、何を送ろう。 携帯画面をスワイプして、これまた、無料のスタンプ一覧を眺めていた。 そうすれば、聞き慣れない、でも、聞いた事のある、LINEの着信音が鳴った。 「…….、」 画面に大きく表示されたのは、美智留の名ではなかった。 瑠伊 それは、俺の兄の名前だ。 「……」 指は、すぐに動く。 癖になっているかのように、通話のマークを押す。 先程、食事中に、睨まれていた、そんな気がする、事実なんて、頭には、なかった。 『歩人、今、暇?』 楽をする為に、スピーカーにしたから、携帯を耳に当てなくとも、兄の声が部屋に届く。 「一人だけど」 何気ない言葉だ。 言った後になって、疑問に思ったけど。 「…」 『そ?じゃあ、どこか食べに行かない?』 「……。や、さっき食べたばっかなんだよね」 『ん?食堂でいた時の話?』 「……、」 『知ってるよ、目が合ったでしょ?』 「……うん」 そこでようやく、脳裏に過ぎる、兄の睨み目、睨んだ顔。 何であんな顔、してたんだっけ。 考えもしなかったな。 美智留との話を優先してしまったから。 『もしかして、その後、何か食べたの?』 何故、こんな話を兄としているのか。 何故、兄は、俺の方を見ていたのか。 何だか、監視でもされているような。 でも多分、そんなつもりはない。 もしも、俺がそうでも、瑠伊は、絶対、そんなタイプじゃないから。 「うん。はま寿司行ってた」 『そうなんだ?じゃあ仕方ないね』 「ん?うん。お腹空いてないんだよね」 『うん。分かってるよ』 頭の中に流れていたモードのような、感覚が変わる。 モヤモヤと煙に呑まれていくかのような感覚。 ズンと心に重い靄が掛かる。 無意識に上がっていた口角が、無の表情を作った。 「瑠伊は、何してたの、」 このやり取りが、俺と兄とを繋ぐ、大切にしなきゃ、孤独になってしまう、そんな不安の塊。 『俺は、滝川と少し話して、今、部屋で、お茶飲んでるよ』 頼れる人、話せる人が、兄、だけの、世界。 俺には、兄しかいないんだって、錯覚を起こしてしまう。 決して、兄が悪いわけではない。 俺の過ごしていた今未満の環境の、名残りのようなものだ。 「滝川……、滝川ね」 芽を出したのは、嫉妬だ。 兄には、寄り付くその人を。 「…ふーん……。」 蹴散らしたい。 でも、兄の為には、ならないよね。 兄には、俺よりも優れていてもらわないと。 泣いちゃうから、そうだよね、辛いよね、そうだね。 『滝川が、どうかした?』 でも、兄は、笑う。 そんな俺がおかしいんだよ、って。 笑う。そっか、俺がおかしいんだ。って。 理解しなきゃ。理解しなきゃ。 って、頭を押さえ付ける、感覚が、 「……」 俺は、恐い。 「嫉妬しちゃうじゃん、酷いよ、」 口から出たのは、弱音だ。 心を傷つけられるのではないかって、不安にもなるけど。 『はは、大丈夫だよ。俺は、居なくならないから』 そっか。 兄は、大丈夫。 俺の事を、大切にしてくれてる。 よね。 そうだよね。 「…、」 縋りたくもなるよ。 不安なんだから。 いつも、不安なんだから。 とても、不安なんだから。 『もうすぐ、お風呂の時間だからね?しっかりしなよ、もう高校生だからね』 俺は、今、会いたかった。 「……部屋行って良い?」 近くに居るんだから、良いよね。 手を繋いでおかないと、瑠伊は、俺を置いていくから。 「……」 いつも、一人。 俺は、一人。 孤独で、しんどいのに。 誰も、構ってくれない。 辛いから、どうすればいいのか。 どうしたって、ダメだったから。 諦めたんだ。 もう、出来ないから、なんにも。 出来ない。 出来ない。 だから、やらない。 逃げる。 伸す。嫌う。 でも。 『来る?』 許してくれるんだね。 瑠伊は。 「…うん。…部屋の場所、教えて」 だから俺は、縋ってしまうのか。 ついつい、目先の甘い物に手を伸ばしてしまうんだよ。 それだけは、俺を許して、甘やかして、虜になってしまうんだよ。 『一年の寮の、隣の建物の一階。一番奥』 覚えた。 これからは、寂しくない。 大丈夫って言う、安心感だね。 「ありがと。…すぐ行く」 夢に、怯えても、平気だ。

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