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第26話
教育に必要なものは、暴力的なものを全て排除した、優しいだけのお話なんだろうか?
「歩人、そろそろ起きないとだよ」
朝。
今日の用意は、まだしていない。
だから、いつもより、早い時間に、兄に、また、起こされる。
「んー……、」
丸まった布団の中で、あれ?これじゃあ兄は、布団を使わずに寝ていたって事?
兄が?そんな事ある?と、急に疑問符が、頭の中にたくさん浮かび上がる。
「ふ、どうかした?」
兄は、そんな俺の様子がおかしかったのか、一つ、小さく笑って、心情を俺に聞く。
「……別に、何でもないけど。ごめんね、布団」
俺は、そのように答えた。
兄は、フルフルと首を振った後、ニコリ。と効果音が付きそうなぐらい、綺麗な笑みを浮かべる。
「平気だよ。温かかったから」
俺を湯たんぽにでもしていたと言うのか。
そんな疑問がまた頭の中に流れたけれど、口は一の字に、そして一秒、瞼を瞬かせた後、ふ、と無意識に困った笑みを浮かべた。
「……、瑠伊も、俺みたいなことするんだ」
安堵、落胆、そのような言葉が相応しい感情が、心に渦巻く。
一緒。
だから、一人じゃない。
そんな、当たり前の、状態。
それが、物珍しいなんて、その方が、可笑しいんだろうけれど。
「傷心中?」
兄は、ベッドに座っている俺の頭の高さに体を傾け、目を覗き込んで、そう聞いてくる。
傷心中ではない。
でも、近い感情なのかもしれない。
安堵。そう、落ち着く感じ。落胆のような。
「傷心って、所謂、どんな感情を指すのか、俺には分からないんだけど、多分、焦燥感とか、悲壮感がそうなら、今は、違う」
口からは、そんな駄文のような言葉がツラツラと並べられた声が発される。
兄は、目を丸くさせた後、傾けていた体を真っ直ぐにさせて、腰に手を当て、はぁ、と面倒臭そうに、ため息を吐いた。
「そう言うところだよ。俺は、聞いてあげられるけど、多分そう言うところが、うん、一言で言うなら、面倒臭いんだよ」
だから、友達が出来ないんだよ。
兄は、そう言う言葉を遠回しで、面倒臭いと言う言葉に纏めて、俺にぶつけた。
グサリ、俯かせている頭の上に、刃物が刺さった感覚だ。
痛みはないけど、心には、確実に打撃が走った。
ドスン、って感じに。
「……面倒臭い俺でも、瑠伊は、愛してくれるでしょ?」
朝から何の話だ。
そんな気もするのに、傷心した感情を立て直すには、兄からの確かな愛情を確認しなければ、今日一日中、ずっとこんな感じになってしまう。
「愛してるよ?そりゃあ、誰よりも」
ポス。
頭に手が置かれた。
少し、そこを撫でて、すぐ、離れていく。
兄の、今の言葉が、そう言うものだと、俺に理解させる為の行動。
言葉では足りないから、言葉以上に俺に触れて、俺に理解させる為に。
兄は、兄が俺を愛している事を、俺に認識してもらいたいんだ。
「…」
俺は、犬のようだ。
頭を撫でられて、簡単に懐いてしまうなんて。
それぐらい、脅威でもあるんだろうな。
人と言う動物が。
多分。
「落ち着いたんなら、そろそろ部屋、戻って、学校に行く準備して、しっかり授業受けないとだよ?」
頭にピンと糸が張られて、それが、兄の声を受け取り、震えている感覚。
そして、脳に振動が与えられて、脳は、しっかりとその言葉を飲み込み、記憶する。
一言一句、間違いの無いように。
「…うん」
兄の言葉からは、俺を生かそうとしている言霊を感じ取れる。
「…ありがとね。気持ちよく寝れた」
制服に着替え直す。
Tシャツは、兄の物を借りた。
あと、まだ、必要なものは、俺の部屋に戻ってから、用意する。
「俺が一人の時なら、いつでもおいでね」
本当に、来てもいいのか。
聞いたって、結局、何か、繋いでおくものがなければ、よく、理解できないんだけれど。
「うん」
俺の顔にも、表面上の笑みが浮かんだ。
こうしておかなければ、兄は、傷付くでしょう?って、ね。
「……」
別に、どうこうしたい訳じゃないけど、そう感じた訳は、兄との関係性を維持していたいと言う、訳なんだけれど。
何だか、嘘をついているかのような考えに、そんな事を兄にした自分に、少し、嫌な気持ちが、した。
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