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第13話 覚えていく
風呂を終えた頃には、日付が変わる少し前だった。
凪が先に寝室へ入り、灯りを一つだけ残す。
少し遅れて、月城が入ってきた。
朝になればまたシャツを着て、玄関のキャリーケースを引いて出ていく。
凪は布団の上から手を伸ばし、月城の指を取った。
絡める。
月城が隣へ身体を沈めた。
しばらく、何も言わずに凪を見ている。
「何」
「覚えておこうと思って」
「何を」
月城の指が、凪の手を握り返した。
「君を」
凪は少し眉を寄せる。
「二十二日だろ」
「二十二日も、だよ」
「欲張り」
月城は答えず、凪の額へ唇を触れさせた。
軽く離れ、次は目尻へ移る。
頬。
耳の下。
同じ場所を辿るのではなく、確かめるように少しずつ位置を変えていく。
凪は最初こそ黙っていた。
けれど耳元へ触れられたところで、呼吸が一度乱れた。
月城が止まる。
「……止まんなよ」
「今のも覚えておきたいね」
「何を」
「声」
凪は月城を見る。
「最悪」
「私しか聞いてないよ」
その言い方を、前にも聞いた。
今夜は逃げる理由にならなかった。
月城の唇が首筋へ下りる。
少し場所を変えながら、ゆっくり触れていく。
凪は月城の肩を掴んだ。
「玲士」
「うん」
返事だけが近い。
唇は肩へ移り、そのまま胸元へ下りた。
急がない。
凪が息を整えようとするたび、別の場所へ触れる。
次が分からない。
それが一番困った。
「……お前、絶対わざとだろ」
月城が顔を上げる。
「何が?」
「それ」
「分からないな」
「嘘つけ」
月城は少し笑って、今度は脇腹へ唇を触れさせた。
凪の指に力が入る。
声を抑えるより先に、短い息が落ちた。
月城は聞き逃さなかった。
「もう一回」
「うるせぇ」
「凪」
名前を呼ばれただけで、余計に意識する。
月城の手は腰にある。
唇はそこへは追わず、また上へ戻った。
鎖骨。
首。
耳元。
さっきより近く、長く。
凪はとうとう顔を背けた。
月城の手が頬へ触れ、戻される。
「隠さないで」
「誰のせいだよ」
「私だね」
「分かってんなら――」
最後まで言えなかった。
唇を塞がれる。
今度は軽くなかった。
凪は月城のシャツを掴んだ。
離れた時には、どちらの呼吸も崩れていた。
月城の額が近くに残る。
「その声も覚えていくよ」
凪はしばらく何も言えなかった。
ようやく息を整え、月城の襟元を引く。
「だったら」
「うん」
「ちゃんと覚えろよ」
月城の目が変わった。
次に触れた唇は、もう確かめるだけではなかった。
凪は目を閉じる。
名前を呼ばれる。
「隼人」
「……玲士」
返した声は、自分でも思っていたより掠れていた。
月城の腕が腰を引き寄せる。
凪は逃げずに、その身体へさらに近づいた。
「ちゃんと帰ってこいよ」
「帰ってくるよ」
「忘れんな」
月城は凪の頬へ触れた。
「忘れられると思う?」
凪は答えなかった。
絡めた指だけは離さず、自分からもう一度月城の唇へ触れた。
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