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第21話 俺が撮りました

新しいRidgelineの広告が街へ出た。 相沢涼、紫月颯、凪隼人。 三人を並べた大きなビジュアルは、駅前のビル壁面と通り沿いのサイネージへ同時に掲出されている。 仕事帰り、凪は月城玲士とその前を歩いていた。 夕方を過ぎても人通りは多い。信号待ちの列の向こうでは、広告へスマートフォンを向ける人が何人かいた。 凪もつられて顔を上げる。 撮影中に見たモニターより、街の中へ置かれた写真の方が遠く見えた。 相沢も紫月も隣にいる。 それなのに、自分まで少し別の場所へ移されたようだった。 「でけぇな」 返事がない。 凪は隣を見る。 月城は広告を見上げたままだった。 「玲士」 「うん」 「何見てんだよ」 「君」 「三人いるだろ」 「いるね」 視線はほとんど動かなかった。 凪は少しだけ月城へ肩を寄せた。 ようやくこちらを見る。 「何?」 「別に」 「近いね」 「嫌なら離れる」 「嫌なわけないでしょう」 信号が変わり、二人で横断歩道を渡る。 広告の前には小さな人だかりができていた。場所を確認しながら写真を撮る人もいれば、スマートフォンの画面を見せ合っている人もいる。 凪は足を止めなかった。 以前なら、自分がどう見られているのかをもう少し気にしていたかもしれない。 今は広告より、隣にいる月城の方が気になった。 「桂木さん、困るな」 月城が言う。 「何が」 「綺麗に撮りすぎる」 凪はもう一度だけ広告を見た。 自分ではよく分からない。 ただ、レンズから逃げずに正面を見ていることだけは分かった。 「前から撮られてるだろ」 「そういうことじゃないよ」 月城は少し笑った。 それ以上は言わない。 凪も聞かなかった。 街へ出た写真は、もう誰にでも見える。 角を曲がったところで、相沢と桂木に会った。 別件の打ち合わせを終えた帰りらしい。 桂木は凪たちより先に、通りの向こうにある広告を見ていた。 「思ったより足止まってますね」 相沢が嫌そうな顔をする。 「嬉しそうだね」 「いい写真なので」 「自分で言う?」 「事実です」 凪は笑った。 桂木には嫌味も謙遜もない。 自分で撮った写真がいいと思っている。 それだけだった。 月城が横から桂木を見る。 「君が撮ると世間が騒ぐから、やめて欲しいんだよね」 桂木が顔を向けた。 「俺ですか」 「君だよ」 「でも、かなり良かったですよね」 「そこは否定してないよ」 「俺が撮りました」 月城が一度だけ目を細めた。 「知ってるよ」 相沢が吹き出す。 「玲士さん、桂木と相性悪いね」 「相性の問題じゃないよ」 相沢はまだ笑いながら広告を見上げた。 「俺も動画で世間の目、ハートにしたい」 月城がそちらを見る。 「君は撮られる側だったよね」 「撮る方もやるよ」 「知ってる。だから困ってる」 相沢は楽しそうだった。 凪はその横で、通りの反対側へ視線を向けた。 月城の方を見てから通り過ぎる人がいた。 一人ではない。 スーツを着て立っているだけなのに、何人かが一度通り過ぎてから目を戻す。 仕事で人前へ立つ月城なら、何度も見てきた。 壇上でも、取材でも、誰かと話している時でも。 それでも、目の前で他人の視線が集まるのを見ると面白くなかった。 凪は月城へ少し寄った。 肩が触れる。 すぐに気づかれた。 「凪」 「なんだよ」 「さっきから近いね」 「うるせぇ」 離れなかった。 相沢がこちらを一度見た。 何も言わない。 その方が助かった。 桂木だけが凪と月城を見比べる。 カメラバッグへ手が動いた。 凪はすぐにそちらを見る。 「撮んなよ」 桂木の手が止まる。 「まだ何もしてません」 「する顔してる」 「かなりいいので」 「だから撮んな」 相沢が笑った。 桂木は肩をすくめ、珍しくそれ以上は食い下がらなかった。 信号が変わる。 四人で歩き出した。 背後には、Ridgelineの三人が大きな写真の中へ残っている。 凪は振り返らなかった。 隣を歩く月城の肩が、まだ自分の腕へ触れていた。

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