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第27話 見つかった人

『夜の向こう側』の公開日は、十二月最初の金曜に決まった。 前日の夜、Aurora Labelから告知が出る。 凪隼人、月城玲士。 RidgelineでもBlue Hourでもない。 二人で作った曲を、そのまま二人の名前で出す。 凪は告知画面を閉じたあとも、その並びをしばらく頭に残していた。 公開当日、昼を過ぎても凪はアトラボ五階のスタジオにいた。 名取圭吾と白石梓から最終確認は済んでいる。今さら自分がすることはほとんどない。 だからこそ、落ち着かなかった。 ギターを鳴らしても集中は続かない。何度もスマートフォンへ手が伸びる。 「お前、さっきからそればっかだな」 操作卓の向こうから紫月颯の声が飛んできた。 「何が」 「時間」 「見てねぇよ」 「見てる」 凪はスマートフォンを伏せた。 少しして、月城へ送る。 《何時まで仕事》 《今日は早めに出られると思う》 《公開見る?》 《もちろん》 その返事を見て、ようやくギターケースを閉じた。 * 月城が来たのは、公開の二十分ほど前だった。 玄関を開けると、スーツの上にコートを着た月城が立っている。 「ただいま」 「ここお前んちじゃねぇ」 「最近は半分くらいそうじゃない?」 「勝手に増やすな」 凪は身体をずらして中へ入れた。 テーブルには夕飯を並べてあったが、月城はテレビを見る。 「先に食べる?」 「公開してからでいい」 「どうして」 「隼人が落ち着かないから」 「別に」 「じゃあ食べる?」 少し黙ってから、 「あとでいい」 と答えると、月城が笑った。 テレビには公開ページを映してある。 サムネイルは、別荘の窓際で撮った一枚だった。ギターを持つ凪と、その横に立つ月城。 凪は何度見ても、先に月城へ目が行く。 「玲士」 「何?」 「これ、お前の方が目立ってねぇ?」 「そうかな」 「そうだよ」 「隼人もいるよ」 「いるけど」 「ならいいじゃない」 「よくねぇ」 月城は理由を聞かなかった。 公開時刻になる。 ページが切り替わり、山梨の別荘が映る。 ギターが入り、そのすぐあとに月城の声が重なった。 録り直した自分の音は前より近い。声を押しのけず、離れて待ちもしない。 画面の中でも、二人はほとんど触れていない。それでも同じ場所にいることは消えなかった。 最後に名前が出る。 凪隼人。 月城玲士。 画面が暗くなってから、月城が言った。 「出たね」 「うん」 「後悔してる?」 凪は少し考えた。 「してねぇ」 「よかった」 しばらくして公開ページを更新すると、曲や映像への反応が増えていた。 その時、スマートフォンが震える。 澄川律だった。 《聴きました》 続けて、 《ギター、前より近いですね》 凪の指が止まる。 《分かんの?》 《分かります》 それだけだった。 凪は少し笑って、スマートフォンを伏せた。 何度も自分の音を近くで聴いてきた澄川なら、そこを拾うのかもしれない。 さらに更新すると、違う言葉が混じり始めた。 《月城玲士って誰?》 隣から月城が画面をのぞく。 「見つかったね」 「嬉しそうに言うな」 また更新する。 《このボーカルの人、声すごく好き》 《映像の人、雰囲気ある》 SNSにも反応が流れ始めていた。 《凪隼人目当てで見たら隣の人が気になった》 《月城玲士、声も顔も強い》 《この二人の並びがいい》 凪はスマートフォンを伏せた。 「……顔もって何だよ」 月城が少し笑う。 「見たままじゃない?」 「お前、自分で言う?」 「私は何も言ってないよ」 「否定もしねぇじゃん」 「否定する理由もないし」 凪は横を見る。 月城は本当に気にしていないらしい。 「妬いてる?」 「まだ」 「まだ?」 「今はまだ」 月城の目が少し細くなる。 「予告なんだ」 「知らねぇ」 凪は立ち上がった。 「飯食う」 「そうしようか」 食事を始めても、スマートフォンは何度か震えた。 三回目で凪は結局手を伸ばす。 「見るんだ」 「うるせぇ」 《もっと月城玲士の歌聴きたい》 《この人ソロで歌わないのかな》 凪は無言で画面を送る。 《凪と月城、また一緒にやってほしい》 そこだけは少し気分が変わった。 「それはいい」 月城が笑う。 「基準が分かりやすいね」 「何が」 「私単独は嫌で、君と一緒ならいい」 凪はスマートフォンを伏せた。 「当たり前だろ」 「そうなんだ」 「そう」 月城はそれ以上からかわなかった。 食べ終わると、凪が皿を洗い、月城が隣で拭く。 「玲士」 「何?」 「ほんとに、もっと歌いたいとか思ってねぇ?」 月城は布巾を持ったまま凪を見る。 「今のところは」 「今のところ?」 「隼人との曲だったから歌ったんだよ」 凪は蛇口を止めた。 「それならいい」 「やっぱり分かりやすいね」 「うるせぇ」 最後の皿を月城へ渡す。 テーブルの上で、スマートフォンがまた震えた。 今度は取りに行かなかった。 凪は月城の肩へ少し身体を寄せる。 月城は何も言わず、その距離のまま隣にいた。

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