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第31話 そこまで見るな
『夜の向こう側』についての取材記事が公開されたのは、その週の終わりだった。
凪隼人は朝からアトラボにいた。
記事が出ること自体は知っていたが、公開時刻までは覚えていなかった。それでも昼前、スマートフォンへ通知が続けて入ったことで気づく。
最初に来たのは相沢涼からだった。
《凪》
それだけだった。
嫌な予感がする。
《何》
すぐに返ってくる。
《見た?》
《何を》
《記事》
凪はそこで一度、画面を閉じた。
数秒後には、結局開いていた。
冒頭には三人で撮った写真が使われている。
凪と月城玲士、相沢。
取材中のカットも続き、その先に月城一人で撮った写真があった。
濃い色のシャツにジャケット。
正面からカメラを見るのではなく、少し横へ視線を置いている。
さらに送ると、椅子へ座った姿や、取材中に笑った瞬間まで使われていた。
「あれ使ったのかよ」
自分が嫌だった顔まで、ちゃんと残っている。
記事本文へ進む前に画面を閉じた。
ところが今度はSNSの反応が目に入る。
《月城玲士、インタビュー写真やばい》
《手きれい》
《思ったより肩ある》
《首元と腕のライン好き》
《スーツよりシャツ姿の方が刺さる》
凪の指が止まった。
声を褒められるのは分かる。
顔も、MVへ出た以上は仕方がない。
それでも、手や肩まで拾われ始めると急に話が変わった気がした。
さらに画面を送る。
《指長い》
《体格いい》
《この人ちゃんと鍛えてそう》
「……そこまで見るなよ」
今度は声に出た。
「何を?」
横から相沢の声がする。
凪は画面を伏せた。
「何でもねぇ」
「月城さん?」
「何で毎回分かんだよ」
「最近それしか言ってないから」
相沢が笑った。
凪は睨んでから、また画面を見る。
「お前も見た?」
「記事?」
「写真」
「見たよ」
「全部?」
「全部」
凪の眉が寄る。
「普通にいい写真だったよ」
「普通にって何」
「撮影として」
「身体まで見られてんだけど」
相沢が一度黙った。
「そこ?」
「そこだよ」
「写真なんだから、見る場所までは決められないでしょ」
「分かってる」
分かっているから、余計に腹が立つ。
凪はスマートフォンを伏せた。
*
午後、仕事の合間に月城から連絡が来た。
《記事出たね》
凪はすぐに返す。
《見た》
《どうだった?》
考えてから送った。
《最悪》
しばらくして既読がつく。
《そんなに?》
《写真》
《写真?》
《身体まで見られてる》
返事が止まった。
数分後、画面が光る。
《隼人》
《何》
《どこを見てるかまで確認したの?》
凪は眉を寄せた。
《うるせぇ》
すぐに返ってくる。
《ちゃんと見てるね》
凪はそれ以上返さなかった。
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