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第7話 無自覚懐き型

数日後、午後のアトラボ三階で、凪は相沢と資料を確認していた。 共有ラウンジには何人か人が残っている。 窓際では青山美咲がノートPCを開き、少し離れたところには、打ち合わせを終えた月城玲士もいた。 エレベーター側から声がした。 「凪さんいます?」 凪は顔を上げる。 澄川が立っていた。片手にはタブレット、もう片方には小さな紙袋を持っている。 「何」 澄川は普通に歩いてくる。 「昨日の映像、相沢さんにも見せたくて」 「なら相沢探せよ」 「その前に凪さんいるかなと思って」 近くで、美咲の手が止まった。 澄川が紙袋を差し出す。 「これ」 「また?」 「茎わかめです」 「前も茎わかめじゃなかった?」 「メーカー違います」 「分かんねぇよ」 相沢が袋を見る。 「そんなに違うの?」 「相沢は参加すんな」 美咲が椅子から少し身体を乗り出した。 「待ってください」 「何」 「前も差し入れありました?」 澄川が答える。 「昆布と干し梅も」 「お前は追加すんな」 美咲の視線が凪と澄川を往復する。 「同じマンションなんですよね」 「何で知ってんの」 「相沢さん」 凪が隣を見る。 相沢は資料へ視線を落とした。 「業務上の共有」 「絶対違う」 美咲は指を折り始めた。 「同じマンション。凪さん宅でセッション。差し入れ複数回。アトラボへ来たら最初に凪さんを探す」 「並べんな」 「分類したくなるので」 「するな」 「無理です」 澄川が美咲を見る。 「何の分類ですか」 「あなたです」 「俺?」 美咲は数秒だけ澄川を見た。 「無自覚懐き型」 澄川は少し考える。 「駄目なんですか」 美咲は澄川を見たまま黙った。 「そこからなんですね」 相沢が笑う。 凪は紙袋を椅子の横へ置いた。 「もういいだろ」 「よくないです」 美咲はまだ澄川を見ている。 「凪さんのところ来すぎじゃないですか?」 「仕事です」 「毎回差し入れ必要ですか?」 澄川は紙袋を見る。 「凪さん食べるので」 「食べるけど」 「ほら」 「何がほらだよ」 美咲の視線が凪へ移る。 「凪さんも受け入れすぎです」 「追い返す理由ねぇからだろ」 「そういうところです」 相沢が笑いながら言う。 「もう凪信者でいいんじゃない?」 「それです」 美咲が即座に乗る。 澄川はまた少し考えた。 「信者って悪いんですか」 「受け入れんな」 「でも凪さんの音、好きなので」 「知ってる」 「家も落ち着きます」 美咲が顔を上げる。 凪は先に言った。 「同じ間取りだろ」 「それ前も言われました」 「なら覚えろ」 「でも違います」 「何が」 澄川は少し考え、凪を見る。 「凪さんがいるので」 美咲が椅子の背へ沈んだ。 「無理」 「何がですか」 「本人だけ意味分かってないのが一番無理です」 「勝手に意味足すな」 相沢が声を立てて笑った。 凪は紙袋を開け、茎わかめを一つ取る。 前にもらったものより塩気が少ない。 「これ、前よりうまい」 澄川の表情が少し明るくなる。 「ですよね」 「そこ喜ぶんだ」 「選んだので」 「メーカー違うだけだろ」 「結構違います」 凪はもう一つ取ろうとして、視線を感じた。 少し離れた席に、資料を手にした月城がいた。 目が合う。 「玲士」 「何?」 凪は少しだけ止まった。 「……何でもねぇ」 「そう」 月城は資料へ視線を戻した。 隣では、澄川が相沢へタブレットを見せ始めていた。美咲もノートPCへ戻る。 凪は手元の茎わかめを一つ取り、袋を閉じた。 少し離れた席で、月城の手元の資料はまだ同じページのままだった。

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