24 / 27

第24話 昔のお前

凪は制作部屋へ戻った。 使ったギターはもうケースへ収まっている。月城は窓際に残ったノートをまとめていた。 棚の奥に、見覚えのある青があった。 「玲士」 「何?」 凪は一枚のCDを引き出した。 『Blue Hour』。 以前、中古店で見つけたものと同じだった。 「ここにもあったんだ」 「自分のだからね」 「そりゃそうか」 凪はケースを開く。 こちらの方が少し傷んでいた。何度も出し入れされた跡がある。 棚へ戻そうとしたところで、奥にあった薄い箱が動いた。 中には何枚か写真が入っている。 「何これ」 月城が近くへ来た。 「ああ、まだあったんだ」 今よりずっと若い月城が、ライブハウスの前に立っている。 何枚かめくると、周囲の顔ぶれは少しずつ違った。 その中で、同じギタリストだけが何度も月城の隣にいた。 「Blue Hourって、メンバー固定じゃなかったの?」 「ほとんどね。私が曲を作って歌って、その時に合う人に入ってもらうことが多かったかな」 凪はもう一枚見る。 「でも、この人は長いんだ」 「ギターはね」 写真の中の二人は近かった。 凪は少しだけ眉を寄せる。 「付き合ってた?」 月城はあっさり答えた。 「付き合ってたよ」 「へえ」 面白くはない。 けれど、写真を閉じたくなるほどでもなかった。 凪はもう一枚だけ見てから、箱へ戻す。 長く隣で音を鳴らしていた人間。 それがどういうものかなら、凪にも分かる。 「今も連絡取ってんの?」 「たまにね」 凪の手が止まった。 「へえ」 月城が少し笑う。 「気になる?」 「ちょっと面白くねぇ」 「素直だね」 「嬉しそうにすんな」 月城は否定しなかった。 凪は箱の蓋を閉じた。 それから月城の襟元へ手を掛け、そのまま引き寄せる。 唇が重なった。 短く終わるはずだったのに、月城の腕が背中へ回る。 凪も離さない。 さっき見た写真は、もう視界に入らなかった。 ようやく離れたところで、月城の呼吸が近くに残る。 「……それ、何」 「何が」 「写真を見たあとの反応」 凪は服を掴んだまま答えた。 「嫉妬」 月城の目が少し細くなる。 「認めるんだ」 「今さら隠してどうすんだよ」 「そうだね」 凪はもう一度、少しだけ月城を引き寄せた。 「今のお前は、俺のとこにいるから」 月城は黙った。 次に距離を詰めたのは月城だった。 凪の背中へ腕が回る。 昔の写真は、閉じた箱の中にある。 消えるわけではない。 消す必要もなかった。 凪は月城の肩へ額を預けた。 少しして、床の箱へ目を向ける。 「CD、聴く?」 月城が聞いた。 「聴く」 「今?」 「今」 凪は顔を上げる。 「でも写真はもういい」 「どうして?」 「見たから」 「何を」 凪はCDを手に取った。 「昔のお前」 月城がこちらを見る。 凪はケースを持ったまま続けた。 「今のお前の方がいい」 月城は何も言わなかった。 背中に置かれた手だけが、そのまま残っていた。

ともだちにシェアしよう!