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言葉一つ間違えれば命を落としかねない。アウレスは男の一挙手一投足に最善の注意を払った。
「そうか。ならば、再びこの世は平和を失うことになるだろう」
男はゆっくりとした動作で立ち上がる。頭が部屋の明かりにぶつかりそうなほどの背丈だった。
「それは……どういうことだ」
「ここに勇者はいないのだろう。話す必要はない」
踵を返した男の背中を呼び止める。
「……待て。お前が探している勇者は……俺だ」
「ほう。それは面白い。だがお前は私の魔力に耐えることすらできなかった。魔王を倒した勇者アウレスがあの程度の魔力に耐えられないということはあるまい」
クロエの言葉にアウレスはどう説明するべきか悩んだ。相手の正体もわからないままに自分の素性を洗いざらい話すわけにはいかない。
だが、さきほどのクロエの言葉が事実であるとすれば、この世界は再び恐ろしい闇に包まれてしまう。クロエにはそれができるほどの魔力がある。
「……魔王を倒すために使い果たしたからだ。今は生きるために必要な、ほんのわずかな魔力があるだけだ」
クロエは振り返るとアウレスを爪先から頭のてっぺんまで目を凝らして見た。
「嘘はついていないようだな」
話を信じてもらえたことに一安心する。しかし不安は残る。この男は一体何者なのか。返答次第では命がけでこの男を倒さなければならなくなる。魔力のない自分に何ができるのか、アウレスには見当もつかなかった。
「こちらから質問させてくれ。クロエ、お前は一体何者だ? なぜ俺を探している」
魔王に仕える魔族も一人残らずいなくなったはずなのに、なぜこんなにも危険な魔力を持つ者がまだこの世界にいるのか。
「私は魔王の息子。我が父を殺した男を探してここに来た」
「魔王……の、息子……」
魔王に息子がいることは知らなかった。いや、アウレスどころか国王ですら知らないはずだ。知っていればあんな盛大に祭りなど開いている場合ではないだろう。
「魔王はアウレスという名の勇者に殺された。この国の王から話を聞いたとき、私はその男の顔が見たくなったのだ」
クロエはアウレスの顎を指で掬うように軽く持ち上げる。人差し指一本に宿る魔力さえも今のアウレスを凌駕している。
「まさかこれほど美しい男だとは思わなかった」
ほどよく日に焼けた肌、銀色の髪、アイスブルーの瞳。アウレスは老若男女問わず人を惹きつける容姿をしている。
魔王討伐後、何度国王に見合いを勧められたかわからない。アウレスはそれらをすべて断り、一人でこの森の中に引っ越した。
「俺を見つけて、敵討か?」
「まさか。私は父の死に興味などない。あるのは魔王を殺した勇者の存在だ。全盛期ほどではなにせよ、魔王が人間に負けるなど信じられなくてな。単なる興味本位というわけだ」
「なら、もう満足か?」
言いながらも、アウレスはこの男が素直に帰ることはないとわかっていた。アウレスはクロエの次の言葉を聞き逃すまいと全神経を集中させる。
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