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アウレスをその手に抱くことだけで頭がいっぱいになり、人生を棒に振った男は何人もいた。かつての男たちの顔を思い出しては、下唇を噛み締める。
「はじめて見るものだ。興味が湧くのは当然だろう」
クロエの言葉にアウレスは全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
魔族は人間と性行為をしない。人間が犬や猫を性的な対象として見ないのと同じで、魔界で生まれた魔族は人間を性的対象として見ることはほとんどない。
魔族にとってどんな女を抱いたかというのはステータスでもあり、自からそのステータスを下げることはしないというのもある。
何より魔族は子孫繁栄の本能が人間よりも強い。過去、人間との間に子を成した魔族もいたが、出産前に母子共に命を落としたという。
つまり魔族にとっては人間を抱くのに何の利点もない。だから、魔族に捕まった人間は労働力として奴隷にされることがほとんどだった。
魔族の特性を知るアウレスは、自分の体がどれだけで特異でも、魔王の息子が性行為を望むことはないだろう、と考えた。
そうとなればクロエの自分に対する興味は、ただ見たことのないおもちゃへの興味と同じだ。魔法の実験台にされるか、好き勝手にいじられて拷問されるか、どちらにせよ性行為よりも恐ろしい目に遭う可能性は高い。
魔力がない中でこの男に見つかったのは、運が悪かったというしかないだろう。
しかし、とクロエは続ける。
「私はお前自身に興味がある。体のつくりだけではく、顔も心も含めてな」
「……なぜだ」
「それを知りたいのは私のほうだ。今、とてもおかしな気分だ。お前を好きにすることくらい、世界を征服するよりも簡単だというのに、お前に触れる気が起きないのだ」
クロエは本気で自分の感情が理解できていないらしかった。魔族は人間とは違い情を持たない。トラウマを持った可哀想な人間に気遣うなどできるはずがない。
ただきっと、発作を見て興が醒めたのかもしれない。それならばアウレスにとってはありがたい話であるが、クロエの様子はどこか楽しそうに見えた。
「私はこの感情を知ることを最優先事項とする。そのためにはお前のそばにいる必要がありそうだ」
クロエは再びアウレスをじっくり見た。顔の大きさ、瞳の色、鼻の形、首の細さ、肌の色、腕の長さ、銅の薄さ、どこの部分をとっても一級品の宝石や彫刻に見える。
「この部屋にお前は大きすぎる」
「ならば人間に近いサイズになるとしよう」
「ベッドは一つしかない」
「私に眠る必要はない」
「本気で俺と生活をするつもりか?」
「お前を観察するためにはそうするのが一番いいだろう」
「魔王の息子が? 人間の男と」
「私の父が誰かなど、どうでもいい。私の立場もお前の種族もな」
何を言っても聞き入れてもらえそうにない。そもそもこの男が魔王の息子であり、世界を支配する力を持っている時点で、アウレスに断る権利はない。
「……仕事の邪魔はしないと約束してくれるか」
アウレスの言葉にクロエは二つ返事をした。
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