8 / 24

7

 朝食のあとアウレスは仕事にとりかかる。彼を観察することに意欲的なクロエは、そのあとをついて家を出た。  アウレスの仕事は家の裏手にある墓地の管理。つまりは墓守だ。この墓地はかつて魔王討伐のために旅に出て、志半ばで命を落とした勇者たちが眠る墓だ。  中には魔王の姿を見ることなく死んだ者もいるという。 「二万人。ここで眠る魔導師の数だ」  大小さまざな白い十字架が不規則に並んでいる。遠くのほうにあるものは日の光に照らされ、十字の輪郭があいまいに見える。新しいものはある程度きれいだが、古いものになると腐りかけているものもやひどく汚れているものもある。 「二百年続いた魔王による王政を変えようとした者たちの墓」  実際魔王に挑んだ勇者はこの数を遥かにを超えている予想されている。ここに眠っているのは、遺体があるなし関係なく、死んだことがわかっている者たちだ。  今でも生死不明の者は大勢いて、街中にある掲示板には、そういった者たちの似顔絵が描かれた紙が何枚も貼り付けられている。 「ここをお前が一人で管理しているのか」 「管理なんて言っても大掛かりなことしていない。ただここに来る訪問者たちの話し相手と、ほんの少しの掃除と、夜間に野犬が出れば追い払う。そんなものだ」  ここに眠る勇者たちの顔をアウレスは知らない。話したこともなければ会ったこともない。知らない人間の墓守を請け負うなど、魔族でなくても理解できないだろう。  魔王討伐後、国王はアウレスに英雄としてその名を世間に公表すること、偉大な存在して後世に伝えるために銅像をつくること、またその遺伝子と魔力を残すため、自分の娘と婚約することを勧めた。  しかしアウレスはそれらすべてを丁重に断り、老衰からまともに歩くこともできなくなった前代の墓守に代わって、この墓を守ると決めた。それこそが自分の使命であると考えていた。  国王はアウレスの返答に強い戸惑いを見せたが、魔王を倒した勇者の意思を無視することはできなかった。 「二百年間、人間は魔王に挑み続けた。勝てないとわかっていても平和のために戦った者もいる。勝つめに人生を捧げたものもいる。魔王を倒したのは俺だけの力じゃない。だから俺にはここを守る必要がある」  クロエはアウレスの言葉こそ理解していたが、そこにある感情はまるで理解できていない様子だった。そしてアウレスもそのことには気づいていた。 「わからんな。魔族にはそもそも死者を葬るという文化も発想もない。死んだらそれまで。時間というものは生きている者のために使うものだからだ」 「……お前の言うことは間違ってない」  正しいことがすべてではないと、アウレスは心の中でつぶやいた。 「おはよう、アウレス」  涼しい風に乗って、しわがれた老婆の声が聞こえた。

ともだちにシェアしよう!