9 / 24
8
レースがふんだんにあしらわれた鮮やかな黄色のワンピースに身を包んだ老婆は、腰がほとんど九十度に曲がっていて、手には艶のある白い手袋をはめ、濃い茶色の杖をついていた。
白と灰色が混ざった少ない髪の毛を後ろでお団子にしており、目は半分ほどしか空いておらず、ずっと笑っているように見える。杖を持っていない手には、白やピンクと言った淡い色の花の束を持っている。
「おはようございます、ルランダさん」
ルランダという老婆は墓の真ん中より手前側にいた。アウレスはクロエになるべく彼女から見えない場所に移動するよう目配せをした。
クロエが大人しく距離を取ると、アウレスはルランダに近づき、彼女から花束を受け取った。彼女は一つの十字架の前で、杖をついたまま精一杯顔を上げていた。
十字架の下部には石の台座があり、そこに名前が彫られている。アウレスはもうそこを見なくとも、彫られている名前を覚えていた。ゆっくりとした動作で花束を置いた。
遠くで鳥の鳴き声がする。アウレスは所々に汚れのある十字架を見た。
「私の夫は偉大な魔導師でした」
芯のある声でルランダは話をはじめた。アウレスは十字架を見たまま彼女の次の言葉を待った。
「魔法学校で教員として十五年間働き続け、多くの優秀な生徒を送り出してきました。受け持ったクラスの生徒たちの悩みには、どんな些細なことでも親身になって相談に乗り、解決へと導いてきました。とても教育熱心な人だったんです」
アウレスは目を閉じ、魔法学校という未知の世界に思いを馳せた。ルランダの話によると、学校という場所は六歳から入学でき、その後十八歳になるまで通い続ける。同世代の魔導師たちが大勢おり、彼らに魔法を教えるための大人がいる。
彼らは互いに家族のように接し合い、長い時間をかけて信頼関係を築いていく。その関係は何年経っても消えることのない、強い絆になるだとルランダは言う。
「夫が担当した生徒たちはみんな口を揃えて言うんです。あんなに素晴らしく情に溢れた教員は他にはいないと。夫が担当教員で本当によかったと。心から笑うんです」
ルランダはここで一旦言葉を区切った。風が止み辺りが静まりかえる。彼女は十分に間を置いてから再び口を開いた。
「ある年の夏、私の夫は魔王軍に逮捕されました」
魔王が世界を支配している時代では、国王は単なるお飾りでしかない。力を持っているのは魔王と魔族で組織された魔王軍だ。
「夫の逮捕を聞いたとき、私は全身から血の気が引くのを感じました。指先が震えていたのを覚えています。夫のことはもちろん信じていました。彼が犯罪に手を染めるわけがないと。どれだけ世界が不条理でも、私の夫はその不条理に身を削りながら、小さな希望となる次世代の魔導師を育てていたのです」
二百年前、魔王が世界の王となったその日、既存の法律は奪われ、魔王と魔族に都合のいい法律が制定された。
魔法学校の存続は許されたが、反体制的な教育や魔王や魔族を批判するような教えはすべて、反逆罪として死刑の対象だった。
ともだちにシェアしよう!

