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   クロエは家の外壁にもたれかかり、アウレスが戻ってくるのを待っていた。 「それがお前の仕事か?」 「聞こえていたのか?」 「魔族の耳は人間の倍は発達している」  クロエを離れさせたのは、話を聞かれたくないからではなく、万が一にも訪問者に魔族であると気づかれないためだ。  世界平和のためとはいえ、魔王の息子がここにいると知られればどうなるか、アウレスにもわからない。 「ルランダさんは毎月七日になるとこの墓地にやって来る。必ず同じ時間に来て、同じ話を俺に聞かせる。俺は毎回同じ言葉を伝える」  毎回同じ日時に来るのは、彼女の夫であるランドルの処刑日が、五十年前の七月七日の八時であるためだ。 「訪問者は他にもたくさんいる。俺はその人たちの話を聞く。できることはそれくらいしかない」  死んだ人間と残された人間のためにできることなんて、それくらいしかない。 「聞きたくなかったら部屋にいてくれ。日中はほとんど外にいるから、用がある時は声をかけてくれたらいい」 「いや、私もここにいよう」  予想外の言葉にアウレスは返答に困った。訪問者たちはこの墓で眠る勇者の家族や友人がほとんどで、魔王に人生を台無しにされ恨んでいるものが大勢いる。  時が経ちすぎてそういった感情を失いかけている者もいるが、それでもクロエの正体がバレることは避けたい。それに彼らの話は魔王の息子が聞きたいような話ではないはずだ。 「人間に興味があるのか?」 「私が興味を持っているのはお前だけだ」    クロエは静かにアウレスを見下ろした。人間に近いサイズになったとはいえ、それでもアウレスより二十センチほど背が高い。  しかし彼には威圧感というものがない。魔力を抑えているからというのもあるが、魔王と直接対峙した身としては、今のクロエは魔王の息子らしさはまるでなかった。 「何を考えている」  人間に近づき、その様子を観察し、魔王とは違う手段で世界を支配しようとしているのかもしれない。あの魔王は力ですべてを支配していたが、この男は頭を使い、言葉を使い、人間の心にうまく入り込んで、世界を再び絶望の底へと沈めるつもりなのかもしれない。 「私はただお前を観察しているだけだ」 「ずいぶんと熱心なことだな」  アウレスはクロエを一瞥する。その表情の奥にどんな真意があるのか読み取ろうとしたが、すぐに諦めた。魔族の考えることなどわかるはずがない。アウレスはクロエに背を向けて墓地に向かって歩き出す。  訪問者が来るまでは簡単な見回りをする。十字架や台座に汚れがあればきれいにするし、雑草が生えていれば抜いたり、お供物の花が枯れていたら処分したりする。  そうやって時間はゆったりと過ぎていく。

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