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昼の三時を過ぎるころ、荷馬車に乗った男が現れた。ドーレス・マーグウェルという男で、週に一、二度、アウレスのもとに食料や生活に必要な雑貨を運んでくる便利屋だ。
「悪いな、いつもこんな遠くまで」
「気にするな。それよりそっちは?」
ドーレスは人間の中ではずいぶんの背が高く、鍛えている分体格もいい。しかしそんな彼から見てもクロエは全体的に大きい。
「……話し相手だ」
「話し相手にしてはずいぶんと立派な魔力だな」
魔王の息子、あるいは魔族だとバレたのかと思ったが、クロエは魔力を極限まで抑えたままだ。ここでアウレスはドーレスの前職を思い出し、この男なら魔王の息子だとはわからずとも、何か感じるのかもしれないと思った。
「ドーレス、頼んでいたものを見せてもらってもいいか?」
「ああ」
クロエから気を逸らそうと声をかける。ドーレスはジャケットの内ポケットから小さな木箱を取り出した。木箱の中にはネイビーのビロード地の箱が入っている。アウレスは箱を受け取り中身を確認する。それはピアスだった。細く長いチェーンの先には十字架がついており、その真ん中にはアクアマリンが飾り付けられている。
「丈夫なチェーンに変えたから、ちょっとやそっとでは切れないと思うぞ」
アウレスはそのピアスを耳につけた。揺れるチェーンの下でアクアマリンが光る。
「似合ってる」
「ありがとう」
アウレスを見るドーレスの目の奥には、深い愛情のようなものがあった。それは年の離れた弟を静かに見守る兄の目と同じだった。実際、ドーレスは若くして命を落とした弟とアウレスを重ねることがたびたびあった。彼に対して甲斐甲斐しく世話を焼くのもそんな理由からだ。
「荷物は部屋の中でいいか?」
「ああ、頼む」
ドーレスは荷馬車から樽やクレートを降ろし、室内へと運び込む。中身はほとんどが食料や飲み物で、他に衣類が少しと本や日用雑貨が入っている。
「そこにいるなら手伝ってくれないか?」
家の外壁にもたれかかったままのクロエに、ドーレスが声をかける。少し不機嫌さのある声にアウレスは慌ててクレートを一つ持ち上げた。
「ドーレス! あいつはいいから。俺が手伝う」
魔王の息子に雑用を頼んで殺されるくらいなら自分でやったほうがいい。しかしクレートは想像より重く、ほんの少しよろめいた。ふと、荷物が軽くなった。そうかと思えばクレートはひょいと浮き、上からクロエの顔が現れた。
「もっと肉を食え」
クロエはクレートを軽々と持ち上げ、アウレスの部屋の中に入っていく。アウレスは数秒間その背中を見つめ、自分の両手を見た。魔王を倒した時に比べると一回りほど細くなった腕を見て、今日の夜ご飯のメニューを考え直すことにした。
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