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ドーレスが持ってきた食料のおかげで、ほとんど空だった氷室は充実し、なくなりかけていた日用品も十分に補充された。これでしばらくは問題ないだろう。
「アウレス、少しだけ付き合ってくれないか」
日が傾きはじめている。この時間になると何かに責め立てられているような気分になるのだと、ドーレスは言う。このまま一日が終わってもいいのか? お前は今日という時間を使って何かを成したのか? と問われているような気がするのだと。
青い空にオレンジ色が混ざり合って、全体的に明るさが失われつつある。荷馬車を引く馬は大人しく運転手が戻るのを待っている。
ドーレスは手前から二列目にある十字架の前で足を止めた。
「今日で十年か」
石の台座にはオーズス・マーグウェル、リル・マーグウェルと二つの名が彫られている。本来、二つの名前が一つの墓に彫られることはない。どんなに小さな子供であっても必ず一人に対して一つの墓があるからだ。二万人分の墓の中で、二つの名が彫られているのはこの墓だけだ。
「早いものだな」
「バカだよな。自分に力があると勘違いしてたんだ」
ドーレスは他人事のように言い、フンと鼻を鳴らす。アウレスは彼を見ずに黙って十字架を見続ける。
「常に正しさの中で生きる親父は、俺にとっちゃ底もてっぺんも見えない壁みたいだった。いつもその壁を俺に押し当ててくるんだ。泣いたって逃げ場なんかない。だから俺は正しいことを言うやつが嫌いだった」
オーズスはドーレスの父の名だ。親のいない子供だけが集められた施設の施設長であり、非常に優れた魔導師だった。
彼は施設長になる前、同世代の魔導師たちとある小さな村を支配する魔族たちを一斉に討伐したことがあった。
当然ながら犯罪であるが、支配していたのが魔王軍に所属していない末端の魔族であったこと、またその村が町外れの小さな村だったことで、軍の手が彼に伸びることはなかった。
「やればできる。お前のそれはやっているとは言わない。結果が伴わないなら、その努力に意味はない。ってな」
故郷で英雄視される男とその息子。比較される日々の中でドーレスは劣等感に悩まされた。
「いつまで過去の栄光に縋ってんだって思った。そもそもあの村の魔族は軍にすら所属してない末端の連中だ。そんなやつらを討伐したくらいで何いい気になってんだって。お前は周りが言うほど大層な魔導師じゃないって。心の中じゃずっとバカにしてた」
オーズスのやったことは多くの魔導師たちから賞賛されたが、中にはその行動を快く思わない者たちもいた。
目立ったことをして自分たちの村や街に魔王軍が攻めて来たらどう責任を取るのかと。生まれたときから魔王が支配している世界だ。今さら犠牲を払ってまで変革を起こそうなどと思わない魔導師がいるのは当然だった。
魔導師全員が魔族を討伐できる力があるわけではない。特に小さい子供が狙われれば間違いなく生き残ることはできないだろう。
軍が攻めてくる可能性があるなら、そのために強くなればいい。それが彼の意見だった。努力をすれば必ず道は開く。魔王が支配する絶望の世界にも、必ず終わりが来る。賞賛と批判の中でもオーズスは正しくあろうとした。それが余計に息子であるドーレスの自尊心を傷つけた。
アウレスはドーレスの父を知らない。会ったこともなければ見たこともない。
一年前、アウレスが墓守としてここに引っ越して来たとき、自分の家族も眠っているのだと、彼が言ったことは覚えていた。しかし詳しい話を聞くのは今日がはじめてだった。
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