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 ドーレスは強く拳を握りしめ、俯いた。 「俺は自分を過信していた。魔導師としては半人前でも、やればできるんだと本気で思っていた。あるとき町中で魔族の集団にに遭遇したことがことあった。十五歳年下の弟を連れていたときだ。その魔族たちは軍の末端で、突然現れて町中にいる魔導師たちを殺しはじめた。逃げなければならなかった。まだ魔族と魔導師の違いもわからない弟がいたからな。けど、そのときは俺は思ったんだ。これはチャンスだって」  散々傷つけられた自尊心を慰めたかったんだろくな。とドーレスは弱々しい声で付け加えた。 「俺はその魔族に挑んだ。死んだのは俺じゃない。弟だ。まだ幼かった弟は近くで身を隠していたが、すぐに見つかって殺された。俺も死ぬんだと思った。親父が現れるまでは」  アウレスは白い十字架にまだ若いドーレスとそして顔も知らぬオーズスとリルを思い浮かべた。ドーレスの顔だけが絶望に歪み、大人の顔へと変化する。 「親父はその場にいたほとんどの魔族を殺した。でも負けたんだ。そして連行された。その場で殺されてもおかしくなかったが、相手の魔族もほとんど力尽きていたんだ。俺が生きた父を見たのはその日が最後だ」  ドーレスは拳に力を入れすぎて、爪が手のひらに食い込み、そこから血が流れていた。 「ここら先は聞いた話だ。父は連行されている途中、馬車から逃げ出し小さな村に身を潜めた。そこで体と魔力を回復させた。村の人たちが言うには、もう故郷に帰ることはないと。自分の息子たちを傷つけた魔族を、その王である魔王を倒すために命を懸けるのだと。そう言ってその村を出たらしい」  三年後、ドーレスが魔導医師会に呼ばれて小さな病院に行ったとき、オーズスはすでに亡くなっていた。母親がここに彼の墓を立て、遺体も残らなかったリルの名前も一緒に彫った。  ドーレスは黒いズボンのポケットから小さく折り畳まれた一枚の紙を取り出した。それはひどく色褪せていて、ところどころ破れていたり、汚れていたりする。紙の真ん中あたりに文字が書かれていたが、アウレスはそれを読むことができなかった。 「バカだよな。自分に力があると勘違いしていたんだ」  もう一度ドーレスはそう言った。声が震えていた。自分を強く咎めるような声だった。紙に血がつき、その部分が茶色くなる。  オーズスの死後、憔悴しきった母親はまともな生活を送ることができなくなり、一年後に亡くなった。  一人なったドーレスは魔王を倒すために魔力に関する研究をはじめた。無闇に立ち向かっても勝てるはずがない。何の根拠もなくただひたすらに魔力をあげる鍛錬をしても、結果が伴う可能性は限りなく低い。  強くになるには自分の持つ魔力の性質や魔族と魔導師の魔力の違いについて、きちんと理解しなければならない。それがドーレスの考えだった。  魔力を研究する中で新しい魔法をいくつも発見した。そのほとんどが攻撃魔法ではなく、回復・治癒系の魔法であった。それにより何人の魔導師の命を救ったかわからない。  魔王が死んだあとドーレスは研究をやめ、世界を巡る旅に出るつもりだった。旅立つ前にこの墓地に寄ったところアウレスと出会い、町へ出られない彼のためにこの国に留まることにした。 「なあ、アウレス。親父は今の俺を見てどう思うかな」  親の愛情を知らないアウレスにとって、オーズスの気持ちをすべて理解することはできない。 「立派だって思うよ。正しさと、強さを持った最高の息子だって」  ドーレスは顔を上げた。大粒の涙を流しながら、彼は笑った。  

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