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 完全に日が沈む前、ドーレスは荷馬車に乗り込んだ。 「アウレス」 「何だ」 「お前のことは信頼している。だが、あの男は危険だ」  ドーレスは横目にクロエを見、声をひそめる。 「うまく言葉にはできないが、そんな感じがするんだ。何かあったら必ず来るから。これを持っていてくれ」  ドーレスは小さな白っぽい石をアウレスに渡した。一見するとただの石に見えなくもないが、青いまだら模様がある。 「これは?」 「魔力が込められた石。離れた場所にいる相手を呼ぶことができる魔道具の一種だ。これには俺の魔力が込められている」  石が一瞬だけ青く光った。ぼんやりとした光だった。 「お前が俺を呼びたいときに自分の魔力が送り込めば、それが俺に伝わるようになっている。どこにいても必ず駆けつけると約束する」  ドーレスの乗った荷馬車は山奥の闇へと消えていった。石はもう光ってはいなかった。  部屋に戻り一息つこうと、アウレスは椅子に腰をかける。ドーレスからもらった石を見る。まだら模様は魔力の影響を受けているせいか、受け取ったときとは変わっている。  こんな便利なものがあるのかと、じっくり石を眺めていると、白く細長い指が石を摘み上げた。指を辿っていくと、不服そうに眉間に皺を寄せたクロエの顔があった。 「気に入らんな」 「何が」 「ここにお前以外の魔力があることが」  クロエは石を握りめた。その瞬間、アウレスは考えるよりも先にクロエの手首を掴んだ。握られた手はまだ閉じたままだ。 「ま、待って! 頼むから、壊さないでくれ……」  鼓動が早い。背中に冷や汗が流れる。うまく呼吸ができない。それでも必死にクロエの手首を掴んだ。  この石に魔力を送れば、それはドーレスに直接届くようになっている。そんなものにクロエの魔力を送ればどうなるのか、力づくで破壊すればどうなるのか。この石をはじめて見るアウレスにはわからなかったが、それでも万が一のことを考えて、破壊しないようクロエに懇願した。  クロエはアウレスの異変に気がつくと、彼の背中に腕を回し、ゆっくりと抱き寄せた。コトン、と石がテーブルに当たる音がした。そこでようやくアウレスは安心したように大きく息を吐き、クロエの胸元によりかかった。 「気に入らんな」 「……そう言うな。ドーレスは俺のためを思って」 「そうではない。私が気に入らんのは、お前が他者に乱されやすいことだ」  背中がじんわりと温かくなるのを感じ、アウレスは昨夜のことを思い出した。頭の中で渦巻いていた思考はきれいに整理され、顔や指先に体温が戻る。呼吸が楽になり、全身から力が抜ける。それはとても心地よかった。 「……俺が他人に乱されると何で気に食わないんだ?」  クロエは質問には答えなかった。代わりにアウレスの背中を静かに撫でた。

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