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アウレスの体は世界でも例を見ない不思議なつくりをしている。それは生まれ持ったものではない。
生まれたときアウレスは男だった。しかしある未完成の魔法の影響を受け、今現在彼の体には男性器がなく代わりに女性器が存在している。
そのような珍しい体に目をつけた大人たちから、他の子供たちと同じように生きる権利を奪われ、絶望を与え続けられてきた。そしてその経験はアウレスの心を自分の力では元に戻せないほどにまで傷つけた。
この人里離れた場所を住処として選んだ理由もその一つだ。他人との関わりを極限まで減らすことで、よくやく落ち着いた生活を送ることができている。いわば、ここは自分を守るための場所でもある。
魔王の息子と関わることになったのは想定外だったが。
「お前が思うよりもずっと醜くて、汚れてる」
クロエは魔法を使って座ったまま本を本棚に戻すと、立ち上がりアウレスを抱き上げた。
「クロエ……?」
そのままアウレスをベッドに運ぶ。
「どうやらお前には私の言いたいことが伝わらないらしい」
クロエはアウレスに覆い被さるようにベッドに手をつく。白い指先がアウレスの腹をそっとなぞる。
「アウレス、お前は男の体を取り戻したいか?」
予想外の質問にアウレスは言葉に詰まった。魔法により変化した体は魔法で戻すことができるかもしれないと、考えがなかったわけではない。しかし体が変化してすぐはそれどころではなかったし、大人になってからはこの体を隠すことで精一杯だった。
文字の読み書きもできないアウレスには、そんな魔法があるのかどうか本で調べることもできなかった。
「……できるのか、そんなこと」
「言っただろう。私が使える魔法の数は魔王よりも多い。お前の体を元に戻すことくらいできる」
クロエの発言に心臓の鼓動が早くなる。自分の手のひらも見えないほど真っ暗な世界に、ほんのわずかな光が差し込んだ、そんな感覚だった。クロエはできると言い切った。彼ほどの魔力の持ち主なら、嘘はついていないだろう。
しかし魔族が人間に対して何の対価もなく願いを叶えるはずがない。どんな対価を払えばいいのか、アウレスには見当もつかなかったが、本当に体を戻せるならどんなことでもするつもりだった。
「……対価は?」
クロエはアウレスの頬を撫で、そして口の中に人差し指と親指を入れた。歯の一本一本をたしかめるように指でなぞり、舌に指を絡ませる。息苦しくて自然と涙が溢れ、口の端から唾液が溢れる。
指を抜くと唾液で濡れたそれを、クロエはわざと舌を出して舐めた。
「私に百回抱かれて、それでも男の体が欲しかったら、そのときはお前の願いを叶えてやろう」
甘い声に下腹部がゾクっとする。
もう誰とも関わらなくて済むように、誰にも触れられなくて済むように、わざわざこんな場所に引っ越してきたというのに、今目の前には自分を抱こうとしている男がいる。人間の魔導師ではなく魔族だ。それも魔王の息子だ。
しかしどうしてかアウレスはクロエに触れられることに、嫌悪感はまるでなかった。むしろ彼に抱きしめられるたびに安心したような気分になる。このまま抱きしめていてほしいと心の奥底で願ってしまう。
それが彼の魔法によるものか、あるいはクロエだからなのかはわからなかった。
恐る恐るクロエの白い頬に手を添えれば、彼はアウレスの手首を掴み手のひらを舌でなぞった。体が小さく跳ねる。
「……魔族《お前》に人間《俺》を抱けるか」
「気になるなら、今ここで試してやろう」
そう言ってクロエはアウレスにキスをした。
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