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アウレスが外に出ると、色鮮やかな青空が広がっていたが、吹きつける風は昨日よりも冷たかった。家の周りの木々の葉が揺れ、乾いた音を立てる。秋の気配を感じた。クロエはいつものように家の外壁にもたれかかり、アウレスの様子を観察する。
墓場にはすでに人がいた。赤色のワンピースに身を包んだ女性だった。俯いているせいで茶色の髪が顔にかかり、表情がよく見えない。
女性は月に一度ここへ来る。いつも同じ赤色のワンピースを身につけ、同じ髪型をし、同じシルバーのブレスレットと指輪を身につけている。そのせいか、アウレスにはいつも彼女の周りだけ時間が止まっているように見えた。
他の訪問者たちと違い、彼女はこれまでに一度もアウレスに声をかけたことがなかった。ひっそりと現れ一時間ほど墓の前に立ち、風にかき消されるように姿を消す。
アウレスから彼女に声をかけることはない。ここへ来るすべての人間が、必ずも誰かと話したいわけではないからだ。ただ静かに大切な人の死を悼む者もいる。
だからその日、女性が声をかけてきたことにアウレスは驚いた。声をかけたと言っても、彼女は俯いたままで決して視線は合わない。
「私は間違っていたのでしょうか」
自分に対して問いかけているという感じだった。十字架の台座には『ニルヴィ・ルーガン』と彫られている。アウレスは静かに彼女の次の言葉を待った。
「今でもわからないんです。私の選択が間違っていたのかどうか」
ニルヴィ・ルーガンという名をアウレスはどこかで聞いたような気がした。顔が思い浮かばないことから、直接関わったことのある人物ではないように思う。ならば、一体その名をどこで聞いたのか。
「彼は国王軍の兵士でした。幼いころから正義感の強い人で、いじめっこと喧嘩したり、困っている人を見ると必ず助けに行ったりするような人でした。私はそんな彼を心から愛していました。いつも歴史の本を読んで、将来は国王軍に所属してこの国の王を、そして国民を守るんだと言っていたのを覚えています。だから彼が十八歳のとき、離れ離れになるのを覚悟の上で、軍に志願するよう背中を押したのは私です。あの人ならこの世界を変えられるかもしれないと思ったんです」
彼女が後悔をしている理由はすぐにわかった。国王軍が国王と国民を守っていたのは、魔王が世界を統一するより以前の話だ。魔王は反乱が起きないよう、国王軍に国王とその一族を監視する役割を与え、その代わり彼らに特権階級を与えた。
「彼が軍に入隊したとき、国王軍と魔王軍にはすでに強い繋がりがありました。国王軍の兵士たちは特権階級を与えられ、他の魔導師たちとは違う扱いを受けていました。何百人もの人々が魔族の気まぐれで死んでいると知っても、誰一人反旗を翻そうとはしませんでした。もう誰も国のために正義を貫こうなんて人はいなかったんです」
誰もがいつかは国王や国王軍の兵士たちが、魔王を討伐し世界に平和を取り戻すと信じていた。ニルヴィ・ルーガンもそのために軍に志願し、そして絶望を見た。
誰も国民の死に興味を示さない。誰も魔王が統一する世界に意義を申し立てない。何千人、何万人の魔導師が死のうが、特権階級を与えられた彼らが魔王に逆らうことはない。
そうやって魔王による統制は二百年続いた。
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