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第2話 盗賊騒ぎ
一週間後の出立に向けて、城内は慌ただしくなった。だがここで、思いもかけないトラブルが起こる。
「盗賊だと?」
夕刻、執務室にやってきた倉庫番の報告に国王は眉を顰めて聞き返した。
「ええ、恐らく……本日の定期点検で判明しました。物資があるべき数より少なくて……」
「だが交替で見張っているのだろう?」
「はい、だから不思議なのです。不審な者は見ていないというのに、物資はなくなっている……」
「……近く出征せねばならぬというのに、物資が足りなくなっては困る。どれだけの物資が消えたのか、わかるか?」
「はっ、これに」
倉庫番は執務机の前まで来て、一枚の紙を差し出した。ラインハルトが受け取り、目を通す。
「……思ったより多いな。衛兵の巡回が半時間おきであることを考えると、一度にではなく何日かに分けて少しずつ運び出したと考えるのが順当だろう。……さて、どうしたものか」
――今、城内は出征の準備に追われている。内通者がいる可能性だってある。
「よし、私が調べてみよう」
「えっ……国王様、自ら?」
「大騒ぎして警備を増やしたりすれば、盗賊はほとぼりが冷めるまで身を潜めるに違いない。そして忘れた頃にまた被害が出るのだ。それ故、奴らに気づかれないよう、秘密裏に動いた方がいい」
「わかりました」
倉庫番は恐縮して頭を下げた。
倉庫は城の端の別棟にあった。ランタンを片手にラインハルトが倉庫内をくまなく調べると、奥の物陰になっている石壁に違和感を覚える箇所があった。手を近づけると微風を感じる。石と石の細い隙間に護身用として携帯している短剣を差し込むと、ガタガタと動く。注意深くその周囲を観察したラインハルトは、石壁に円形の亀裂を認めた。
――この部分の石壁を取り外して入り込んだのか……?
盗賊は王国側が気づいていることを知らない。今日もやって来る可能性は十分あった。
ラインハルトは倉庫番に倉庫の中で見張ることを伝え、ランタンの灯りを消し物陰に隠れ、辛抱強く待った。
外もすっかり暗くなったと思われる頃、果たして盗賊は現れた。ガタついていた石レンガが外側から抜き取られ、そこに手を掛けて石壁が外されると、大人が屈んで通れるほどの穴がぽっかりと開く。
ラインハルトは暗闇に慣れた目でその穴からフードを被った盗賊が侵入するのを、息を殺して見守った。そしてランタンを灯して庫内を物色し始めた盗賊に背後から音を立てずに近づき、手刀を食らわせた。盗賊はくぐもった呻き声を上げ、倒れた。
ラインハルトは外の倉庫番に知らせるため、扉の方へと足を向けた。その時、殺気を感じて振り返ると、フードを被った盗賊が右手に短刀を構え、襲い掛かろうとしていた。ラインハルトが咄嗟に腕を上げ、頭を守ろうとする。
「ぐっ……」
だが肉を叩く鈍い音とともに苦悶の声が聞こえ、ラインハルトが腕を下ろすと、盗賊は右手に短剣を構えたまま倒れるところだった。そしてその後ろには――
「ベネディクト……」
漆黒の鎧を纏った騎士・ベネディクトが立っていた。
「盗賊は二人いたのです。一人は外にいて見張りをしていた。こやつは仲間の異変を感じて駆け付けたのです」
「なぜここに?」
「倉庫番が見張りを交代したとき、貴方のことを知らせてくれました。……まったく。相変わらずご自身で動きたがる。もう、一人で無茶はなさいませぬよう」
ラインハルトの問いにベネディクトはやや呆れたように返した。
それから二人は扉の外の倉庫番に盗賊のことを話し、彼らは角笛を吹いて応援を呼ぶと、盗賊の捕縛に取り掛かった。
「あとは衛兵に任せましょう」
「ああ、そうだな」
そして二人は居城に戻るべく連れだって歩き出したのだが――
「……微かに血の匂いが。……! まさか、陛下」
ベネディクトは思わず王の腕を取って見た。そこには薄っすらと血の滲む直線の傷があった。
「私としたことが、貴方にお怪我を……」
「盗賊が倒れるときに短剣が掠めただけだ。放っておいても自然に治る」
ラインハルトは何でもないことのように言った。
「駄目です。きちんと手当しなくては」
だがベネディクトが頑として主張する。ラインハルトはこんなとき、彼が決して折れないことを知っていた。
「……わかった。私の部屋にも布くらいはあるから、行こう」
王は内心嘆息しながらも騎士に言った。
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