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第3話 告白
王の私室は常夜灯の燭台が幾つか灯されていて仄明るい。ラインハルトがチェストから亜麻布と包帯を取り出し、寝台に座ると、ベネディクトは室内にあったキューブスツールを移動させて、王の向かいに座った。ラインハルトが無言で傷ついた腕を差し出す。
「大した怪我でなくてよかった」
傷を確かめたベネディクトが安堵した声で言い、携帯していた傷薬を塗り込み、ラインハルトから受け取った亜麻布を当て、包帯を巻いていく。
「だから言ったではないか。掠り傷だと」
ラインハルトがブツブツと小声で呟く。
「それでも。放っておいてよい傷ではありません」
「君の言う通りだ。……君が手当てしてくれて助かったよ」
棒読みになっているのを自覚しつつ、彼の言うことを否定せずに感謝することで会話を終え、早く去って欲しいがために、ラインハルトは言った。彼と夜中に二人きりでいたくなかった。なぜなら――以前、彼に恋をしていたから。
少年の時から、最も近くにいた、世話役の騎士。共に鍛錬し、屈託なく笑い合った、兄のような親友。そして……初恋の人。ラインハルトの脳裏に少年だった頃の光景が浮かぶが、すぐさまその記憶を払い除けた。
――昔のことだ。
ラインハルトは自身に言い聞かせる。まだ少年だったラインハルトはベネディクトに気持ちを伝えようと何度も迷ったが結局、伝えることはしなかった。親友のまま近くにいられるだけでも幸せだと思い込もうとした。
だが成人して即位したと同時に、彼は遠い存在になった。主従の礼節を僅かなりとも崩すことなく、屈託なく笑い合うこともなくなった。
そんな中で、彼への想いは心の奥の引き出しにひっそりとしまい、もはや取り出して見ることもなくなった。――のだが。今のように二人きりになった途端、彼を意識してしまう自分が居た。
「……陛下」
ラインハルトの望みに反して、ベネディクトは腰を上げようとはせず、どこか思いつめたような声で、言った。
「うん?」
「私たち王国軍は数日後、魔物との決戦に赴くため、出立します」
「ああ」
「無論、必ずや勝利して戻るつもりではいますが……」
そこでベネディクトは言うべきかどうか逡巡する様子を見せ――意を決して顔を上げた。
「……もしも今が、貴方と二人で話せる最後の機会であるなら、お伝えしたいことがあります」
その暗緑色の双眸は、いつになく揺るぎない光を湛え、ラインハルトを真っ直ぐに射抜いた。
「ベネディクト?」
「ここで伝えなければ、私は一生悔いを残すでしょう」
「何だ? 話せ」
――こんな真剣なベネディクトは見たことがない。
彼が話そうとしていることは余程の事かと思われた。ラインハルトも真剣な貌で促す。
そして彼の口から出た言葉は王が全く予想だにしないものだった。
「……私は、貴方をお慕いしております」
「……」
――………………えっ!?
ラインハルトが息を呑む。ベネディクトの深い暗緑色の双眸には決意が滲み、ラインハルトだけを映していた。騎士が続ける。
「陛下。私は貴方と初めてお会いした日から、貴方と過ごしたすべての日々が幸福な宝物で、どんな言葉もこの気持ちを表すには足りません。陛下の傍に在ることを許され、貴方を助けられることが誇りで最高の喜びです。それ故に……貴方のためならいつ死んでも構わないと思いながらも、伝えずにはいられなかった」
「ベ、ベネディクト……」
片想いだと思い込んでいた、届かぬ星を見上げるような心地でいた相手から想いを告げられて、ラインハルトの頭の中が真っ白になる。そして無理に抑え込んでいた想いが止めどなく溢れ出す。
ラインハルトの中で何が起こっているのか知る由もなく、ベネディクトは自嘲気味に笑い立ち上がった。
「……貴方に何かを望んでいるわけではありません。ただ伝えたかっただけです。……私はもう行きますね。良い夢を……“ライ”」
ライ。それは王位に就くまでベネディクトが呼んでいたラインハルトの愛称だった。突如当時の愛称を慈愛の眼差しとともに呼ばれた衝撃が彼を我に返らせ、王は咄嗟に騎士の手首を捕らえ立ち上がった。
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