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第10話 雑談
一日のほとんどを遠征の準備に追われていたベネディクトは、切りが良いところで切り上げ、日課の鍛錬をしようと城の練兵場へと足を向けた。
「やあ、ベネディクト!」
その途中で聞き覚えのある声に呼ばれたため、立ち止まって振り返る。決戦にも同行する予定の騎士ザカリーだった。
「ザカリー。何か用か?」
「ああ、用ってほどのことでもないんだが」
とザカリーは近くまで来ると、窺うようにベネディクトを見た。
「鍛錬に付き合ってくれないかなと思ってさ」
「いいぞ。俺も今から練兵場に向かうところだ」
「おっ、そうか! ならご一緒させてもらおう」
ザカリーは満面の笑みでベネディクトと歩き出した。
「ホント助かるぜ。いつも鍛錬に付き合ってもらってるダチは決戦前に親孝行したいとか言い出してよ。ペアを組む相手がいなかったんだ」
「はは、俺を見かけてよかったな」
「ああ。……およ?」
ふと隣を歩くベネディクトを見たザカリーは何かに気付いたように小首を傾げた。ベネディクトも言葉を途切らせた彼を不思議に思い、そちらを見る。
「どうした?」
「んー、何か肌ツヤいいなー、と思ってさ。もしかして恋人ができた?」
「……」
どう答えるべきか迷い、ベネディクトが言いよどんでいると、ザカリーが続けて言った。
「いやさー。お前みたいなクソ真面目なカタブツ騎士はずっとそういうの、興味ないんだと思ってたんだよ。けど今のお前、色恋にうつつを抜かしている連中みたいに”満たされてる”オーラ出てるなと思って」
「……恋人ではない。便宜的な友だ」
嘘が得意ではないことを自覚しているベネディクトは下手に誤魔化したりせず、事実を簡潔に伝えた。
「へぇー、トモダチと一線を越えちゃうとか、お前もやるねぇ」
ザカリーが感心して頷く。
「でもそれを聞いて安心した」
「何?」
「恋人じゃなくて、ってこと。ほら、相思相愛の相手がいたら命を懸けた決戦に向かう決意も揺らいじゃうだろ?」
「……」
――相思相愛? 決意が揺らぐ?
ベネディクトがザカリーの言葉に漠然とした引っ掛かりを覚える。考え込みそうになったベネディクトに構わず、ザカリーは続けた。
「だから俺は決戦が終わるまでは恋人は作らないって決めてるんだ。あ、もちろん決してモテないわけじゃないぜ?」
ザカリーは立てた人差し指をチッチッとメトロノームのように振った。
「だが国王に協力して魔物を殲滅することが最も優先すべきことだからな!」
腕を組み、エヘンという擬音が聞こえてきそうなほどのドヤ顔で言う。……かと思えば次の瞬間、ちょっとバツが悪そうな顔をする。
「まあでもサクッと楽しみたい時ってあるだろ? そんな時は俺もそうしてるんだ」
「……は?」
――何を『俺もそうしてる』のだろう?
「お前みたいな便宜的な友ってヤツさ。俺にもそういう相手がいる」
「……」
「ま、出発まであと僅かだから、お互い悔いのないように過ごそうな?」
ザカリーはそう言ってニカッと笑った。
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