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5章❷.ケンカしてないが「仲直りえっち」を、(次回R18)

† 来週の月曜には返事をして、企画をブラッシュアップする段階に入らなくてはならない。例によって平日に落ち着いて話す余裕はなく、チャンスは週末しかなかった。 『君のおうちにお泊りに参る。折り入って話がある』 亜紀は金曜の朝のうちにそうLINEを入れておいた。すぐに既読になった。 『会食があって遅くなる。うちでお待ちいただけるか。適当に食っといて』 これでお泊りは確定。企画そのものはもう春彦の耳にも届いている。亜紀はパソコンを開かなくても見せることができるよう資料を印刷し、何カ所かにボールペンでコメントを書き込んだ。やっぱりいい企画なんだよな、と思いながら。 正直、「保険」としての役には立ちたいものの、自分とレイラがウエディング的な格好で並んでいる様子がうまく想像できない。この資料の立ち絵のように、新婦が8センチのハイヒールを履くとなると、新郎との身長差は20センチ近くなる。現実的にそういうことは十分あり得るが、「モデルなんだからわざわざこの組み合わせでなくとも……」というツッコミは確実だろうと思った。 † マンションに戻ってシャワーを浴びたばかりの春彦の前に、例の資料を置く。 「お読みください」 「……クロスの企画だよな。出張中に連絡が来ていたんだが、詳細を見るのを先送りしちゃってたんだ。だいたい知ってるよ。心寧が外部ディレクターで入ってる」 外部とはいえ、ロナルド絡みだから外部とも言い切れないんだけどな、と春彦。 「あのね、だいたいじゃなくて、ちゃんと読んでほしいんだよ。これが最新版だし、俺からも補足を書き込んであるから」 「おまえがそこまで言うなら、いい企画なんだろう」 「そう。心寧さんがつくったからなんとかしたいわけじゃない。企画そのものがいいからだ」 「ん。読むよ」 ぺらぺらめくって終わりかもしれない、と思っていたが、思いのほかしっかりと読み込んでくれている。特に、亜紀の書き込みが多いページには時間をかけている。この更新版でなければ、亜紀とレイラの名前は載っていない。さてどんな反応をするのか。 「なるほど。確かにいい」 「だよね」 「おまえの秘密はこれか。まだ関係者以外に出せない情報だった、というだけで」 「違う。俺は、この俺役のところを春彦にやってほしくて。そのこと」 正確に言えば、それも違う。あの日の時点では、ここまでの結論は出ていなかった。心寧の心境、レイラの幼い日の夢、要素はほかにもあって全部出すのは絶対無理だ。 だから、この状態で押し通す。 「俺じゃない、って思うから。ただ、心寧さんやレイラさんのことを考えると、春彦が引き受けてくれるとは思い難い。そこをなんとかしてくれと、無理を言っている」 「理解はした。……ビール飲むか?」 「飲む」 春彦は立ち上がり、キッチンからビールとグラスふたつを持ってきた。春彦は自分の隣に亜紀のグラスを置いたので、亜紀もソファに座った。春彦はビールを口にしながら資料を見ている。その様子からすれば悪い感じではないと思えるが、どうだろう。喉越しを楽しむはずのビールなのに、飲み込むまでに苦さをじっくり味わってしまった。 「……確かにいいね。もう少し説明してもらっていいか。いまのおまえの言葉で。彼女たちの考えなども」 「ああ、うん、もちろん」 彼女たちの情熱まで伝えていいのなら、伝えたい。亜紀はけっこうがんばって諸々を説明した。もちろん、心寧の恋心については触れなかった。それは、あくまでも心寧の内面の話だ。 今回の件だって、「自分だからわかったこと」であって、ほかの社員が見たところでなにも違和感はないはずだった。 「ん、なるほど。ありがとう」と、春彦。 緊張の一瞬。 「まず、前提として。亜紀は知らなかったみたいだけど」 「……え、なに」 「クロスってのは、部長以上の采配で進めるんだ。つまり、部長自身はクロスの対象じゃないんだよな」 「えっ」 「部署クロスの目的は、主に一般社員の視野を広げ、経験値を高めることにある。主任クラスの役職付きがやることもなくはないが、前例は思い出せないな。だから、亜紀が抜擢されているのを珍しいと思っている人間も多いだろう」 レイラは門倉部長と小野田部長付きの秘書で、秘書室長でもある。ただ、秘書室自体が社長直属で組織として少し独立しているので、まあやってもいいかなというくらいだ、と説明を続けた。 ──つまり、「レイラがいとこだからダメ」というのは、そういった制約の、次の次くらいの障壁だったのだ。 「じゃあ、その時点で無理ってこと……?」 「まあ……これ、緒方専務の管理だから、専務次第かな。クロスではなく、別建ての広報案件で新たに稟議を通すことになって、スケジュールはズレる。ローンチ(公開)予定時期をずらせば問題ないけど、そこまでして緒方が俺を使いたがるかな」 「えええ……」 「緒方からすれば『一ノ瀬だから』ってのは大きかったんじゃないのか。心寧はそうじゃないとしてもだ。あのふたりの関係は知らないが、そのあたりまで話したかどうかは疑問だな」 「…………会社って……つまんないね……?」 「そうだね。もうふたりで独立しようか?」 台詞は仕事のことなのに、プロポーズのような響きを含んだ声。 「くっそ」 「おいで、亜紀。仲直りしよう」 「……喧嘩なんかしてないですけど」 「そうだっけ」 脇の下に手を差し入れられたと思ったら、いとも簡単に持ち上げられて春彦の脚の上に着地した。 「──ちょ!」抱き寄せられて気付く。「ねえ、なんで勃ってる?」 「家に帰ってまでがんばってて可愛いなって思ったらダメだった。シチュエーションが問題なんだ。わかるだろ、俺はそういうのに弱い。会社ではこんなことないから安心してくれ」 「こんなことあってたまるか」 とか言いながら、亜紀はなにかのレバーのような角度でそこにある硬い棒状のものを掴んだ。実に悔しいが、それだけでぞくりとしてしまう。 「なあ亜紀……この話は終わりでいいか? せっかくの週末なんだから」 春彦がたまらないといった顔で髪や腰に触れてくる。 「決着がついていない」 「決着と言ってもな……別に勝負とかでもないし」 ……妙なことを思いついた。勝負にすればいいのだ。

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