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R18 5章❸.勝負。恋人が弱いシチュはだいたい把握している
「わかった。じゃあ、勝負しようよ。君が負けたら、この企画を春彦で通すの、手伝って」
レバーをさらに強く握り込んで、亜紀はそう言った。
「勝負? なんの……おい、この手はこのままか? 懐かしいパターンだが」
「セックスで」
「セックスで……セックスで?」
「先にイったら負けってことで」
「参考書にそういうのはあったが……」(※BL同人誌のことである。2巻参照)
「参考書?」
「いやなんでもない。それにしても亜紀って、そんなに公私混同させるタイプだったか……?」
「う」
それは亜紀自身も思っている。ただ、そもそもの問題が公私混同の極みなので、切り離せるわけがない。ただ、自分は個人的な気持ちを裏切るようなことをやっている。心寧の気持ちが気になるなら、彼女を春彦に近づかせるのは逆効果。レイラの夢を叶えてあげる義務もない。
じゃあなぜ? それは、これが「仕事」だからだ。
個人的な気持ちに負けたくない。仕事は仕事できちんとしたい。そうでなければ、この男の隣に並ぶだけの価値はない。素直に「いい」と思えたあの企画を、成功させたい。公私混同であっても。セックスと仕事が混ざっていても。
「勝負なら、亜紀が積極的に動いてくれるってことか。いつもより」
あまり乗り気に見えていなかった男が、言った。
「そ……それでもいい」
「ふうん。俺はいままでのセックスに大満足しているが、亜紀のいろんな顔は見たいからな」
「じゃあ……する?」
少し、誘う。指先にちょっぴり圧を加えて、動かすか、動かさないか、くらいの微妙なことを繰り返す。
まあ、自分のほうが不利に決まっているのだが。
男を迎え入れる感覚にはまだ慣れていない。というか、慣れても平気になる気はしない。
だからと言って引く気もない。
──ちょっと、面白そうだし。
だって、恋人とこんなことをした経験って、人生で一度もないし。
「いいでしょう、しましょう」と、春彦が頷く。
「いい……んだ?」
「ああ。俺が負けたら……つまり、俺が先にイったら、この企画に協力する。心寧がいようとレイラがいようと、緒方専務が関わっていようとも。負けは負けだ、かまわない。ただし、俺が勝ったら……」
そうだ、そうなった場合のことも考えておかなければフェアではない。
「なに、言ってみて」
「彼女たちは、亜紀の友人だ。俺の友人ではない。今後は、彼女たちのやることに俺を巻き込まないと約束してくれ」
業務命令でない限り。そして今後、そういった業務命令は存在しない、と春彦は言い切った。それは亜紀にもわかる。春彦の役職が上がるか、あるいはもう、独立するかしている。
「わかるけど。でも、そこまで……?」
「冷たいかもしれないが、このくらい言っておかないとな。だって俺は、おまえに頼まれると断れないんだよ。そのたびにこういうやりとりをするのかと思うと、な」
溺愛の代償。亜紀だって、やりすぎれば春彦の利用でしかなくなる。
そういうルールがきちんと存在するのは、自分にとっても助かるかもしれない、と思う。
「……うん、そうだね。ごめんね」
「勝負は勝負できっちりやるから謝らなくていい。──では」
春彦は亜紀の唇にちゅ、と小さくキスをすると、「に」と笑った。当然、負ける気はない、という顔。ただし、100%余裕かどうかはちょっとわからない。なにせこの男は、ちゃんと真剣に自分に夢中でいてくれていて(理由は本当によくわからないが)、こっちが微妙にエロいことをすると、実はこっそり、でもかなり動揺しているときがあるから。
握ったレバー(※くれぐれもレバーではない)はそのままに、ずるりとソファと春彦の脚から降りる。いつもならこの薄い布たちを引き下ろして始めるところだが、そうしない。そのまま咥える。例によって口のなかに収めきれないが、別にいい。唇と舌をうまく使う。
唇や舌で刺激してやると、上のほうから春彦が大きな息をつくのがわかる。もどかしいのだ。この男は全然早漏じゃないので、時間をかけて高ぶらせたほうがいい。さっき言っていた『シチュエーションが問題なんだ』、これは確かに核心を突いた指摘で、ちょっと珍しいことをすると、味わいすぎちゃう傾向がある。
ルームウエアも下着も唾液でたっぷり濡らしてから、引き下げる。目の前でそそり立っているそれは、暴力的と言っていいほどの迫力だ。
さて。ここからはいわゆるフェラチオだが。一ノ瀬亜紀、実はけっこう得意である。
「なんかさ……」と、春彦。
「なに」
「……コレしてくれるとき、やってやるぜ、って顔するんだよな。おまえ。気概を感じる」
「さあ? どうなのかな」
当たり。最初、研修施設のベッドで初お目見えしたときこそこいつの存在感にビビったが、回数を重ねるごとに「第2の春彦」としての愛着を感じるようにまでなってきた。さらに言えば、ここは身体のなかでも殊の外いい反応を見せてくれる部位だ。総じてクールなこの男の意外な一面を見るようで、なんか楽しいな……と思い始めたあたりから得意かも、と自覚したのである(?)。
唇を使って遠慮なく唾液を擦りつけながら、握り込む力も変化させる。口のなかに入り切らないなら、口内の壁にゴツゴツぶつけてやればいいのだ。反応と硬さで嘘はつけない。ぐ、と一瞬硬くなるのはなにをしたときか。愛らしいとまで感じられるその瞬間を覚えておいて、重ねていく。
こうしているとき、春彦が耳や髪にそっと触ってくれるのも、すごく好きだ。顎のあたりもいたわるように触れ、うなじを撫でてくれる。
すぐに亜紀自身も勃起してしまう。隠す必要なんかないから、ズボンと下着を引き下げて自分のものも擦る。これはいままでやったことのないパターン。
「亜紀……これはひどいな……エロ……うわ……いいな……」
どっちだ。
亜紀自身、「なんっつう絵面だ」とは思う。春彦が興奮しそうなのもわかるし、確かに興奮していらっしゃる、と咥えているものの反応でわかる。引いたりなんかしていない。
なるほど。とすると?
床に置いてあったレジ袋を引き寄せ、買ってきたばかりのコンドームの箱を出す。
「春彦。全部脱いで」
そう言いながら、自分も脱ぐ。コンドームをパッケージから出したところで、春彦が「え」と声を上げた。亜紀が指に着け、その腕を背後に回したのを見たからだ。
亜紀は再び濡れそぼったそれを咥えようとしている。
「──いや、亜紀……なにをするつもりで」
「だってさすがに拡げないと、こんなのいきなり入らない」
「拡げ……自分で……?」
亜紀はにやりと笑ってしまいそうなのを堪えてクールに「そう」と答えた。おまけとして、こう付け加えた。
「ちょっと前にひとりでしたから、あんまり時間はかからないと思う」
「は???」
「自分でしてたら、意外? だってしたくなっちゃったんだよ。この前の夜を思い出したら」
恋人が自分の後ろを自らの指でほぐしながら、フェラチオをするシチュエーション。
恋人がひとりで後ろを使って、マスターベーションをしているシチュエーション。
春彦の弱みにつけ込むようなセリフを畳みかけていく。春彦がごくんと生唾を飲む音が響いた。あとは、粘着質な水の音と、春彦の荒い呼吸と。
ただ、フェラチオだけではイかせられそうもない。亜紀は春彦の陰茎にもコンドームを被せると、春彦の腰の上に膝を立てて跨った。
「……ソファ で?」と、春彦。確認するように。
「うん。したことないよな。汚れたら俺が掃除するから」
「いや……そんなのはいいが……もういいのか」
「たぶん、へいき。早くしたいし」
ぐ、と春彦の喉が鳴った。こちらから仕掛けると、いちいちなんらかの反応がある。やっぱこいつ可愛いところあるんだよな、など思いながら、自分の濡れたそこにゆっくりと押し当てた。春彦の肩に掴まりつつも、重力に任せて腰を落とす。躊躇なく、飲みこんでいく。
「……おい、亜紀……ちょっと、え──……っ、」
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