22 / 25
8.亜紀の知らない会話
──10月10日(土)土曜夜、電話にて/春彦視点
「もしもし? 佳代さんですか。春彦です」
『あら、こんばんは!』
「いま大丈夫ですか。遅い時間になってしまい、申し訳ないです。担当の延本から報告がありました。あのアパートも契約に進めるそうです。入居者がいるまま引き継ぐ条件で、先方にもご納得いただけているそうで。これで全部終わりますね」
『本当ね、ありがたいわ』
「また細かな契約内容は確認していただき……」
『ねえ! じゃあ、もう亜紀ちゃんに言ってもいいのね?』
「──あ……はい、それは佳代さん次第で。お気持ちの整理がついたらいつでも……」
『気持ちの整理なんかとっくにできてるのよ。とにかく、亜紀ちゃんを騙してるみたいなのがイヤなの。早く春彦のところに行きたいかもしれないのに』
(2秒無言)
「いや……それはどうかな……。彼から直接聞いたことはないので」
『まったく? 全然?』
「う~ん、同居を前向きに検討するとか、そのくらいなんですよ。二葉くんや一沙くんには、違う言い方をしているようですが」
『亜紀ちゃんからはっきりした希望を引き出せばいいのね?』
「いやっ……引き出さなくていいです、自然な感じが理想です」
『自然な感じでぽろっと出るのはいいのよね?』
「はい。ふふっ。そうですね、ぽろっと。……まあ、実のところ、最近私がかなり強引なやりかたをしてしまっていまして、これ以上は……」
『春彦ってば、亜紀ちゃんになにをしたの』
「いや、それは、」
(春彦の咳込み、3秒)
『……失礼、内緒です。佳代さんのお気持ちはとてもありがたいんですよ。私の問題です』
『言いたいことはわかるよ。大丈夫、私はもう立派なおばあちゃんだから、春彦よりも上手にぽろりが引き出せるのよ』
「(やっぱり引き出しちゃうなあ……)なるほど、わかりました。取り急ぎ、詳細な日程などは延本からご連絡しますので。延本も、よい物件ばかりありがとうございました、とのこと」
『わかったわ。延本くんともしっかりお話する。いい子よね、彼も』
「ですね。私も信頼している者です。いろいろ綺麗に収まってよかった」
『やったぜ』
「はい、やったぜです。ではそんなわけで……」
『亜紀ちゃんには明日の朝に直接言うわ! じゃあ、お休みなさい』
「えっ」
(回線は既に途切れている)
ともだちにシェアしよう!

