4 / 5

3

 人が愛する者と営みを行うのは、子孫を残すためだ。  でも、天使や悪魔はそうやって子孫を残すことがない。だから愛なんて、俺たちにはそもそも必要がないものなんだ。     ――そう、要らないだけなら、良かったのに。  神に従うために生まれ、何よりも神を重んじることが宿命である天使にとって、神以外を愛するということ、それは即ち……  “神を裏切る”ことだ。  『人間ごっこ』と呼んで始まった行為は、きっとその名の通りまがい物だ。愛なんてどこにも存在しない。  それなのに、俺たちはどうしてこんなにも必死で、痛みに耐えながらも、愛し合う者同士のようなことをしようとしているのだろうか。  シエルの指が俺の後ろに挿れられ、身体の内部に直接聖気が触れることによる痛みは、ピリピリと痺れるようなものでは済まなかった。  ズキズキと鋭く、響くような痛みが、シエルの指から芯を通すように貫かれる。 「ぐ……、ううっ……!」  俺はシエルの背中をギュッと掴んで、ひたすら耐える。  シエルそのものが聖気を纏っていて、痛みを和らげるどころか、その苦しみが酷くなってしまうことは分かっているのに……どうしてか今は、シエルから離れたくなかった。  シエルはそのあとも、自身のものを俺に挿れるために、入り口を指でじっくりと拡げていく。  痛みはあるものの、慎重に、丁寧に、俺を気遣うそのやさしさは、愛のようにも思えた。 「ルカくん……挿れる、からね……」  俺は黙って頷く。  そんな俺を見て、シエルが目を細め、愛しい者を見つめるような目で微笑んだ。  どうしてそんな目が出来るんだ。  俺はシエルにとって……何なんだ。  シエルの熱いものが、俺の身体に触れ、少しずつ挿れられる。  そのとき襲ったのは、全身を焼かれるような、激しい痛み。 「うあああっ……!!!! あああッ!!!!」 「ルカくん……ごめん……ルカくん……」  痛い、痛い……!!  苦しい、痛い……!!  シエルはそれでも、俺を強く抱きしめながら……俺の中へずるずると入り込んでくる。  これが愛じゃないのなら、ただの真似事だって言うのなら、俺は何のために。 「すぐ、よくしてあげるからね。今は……」  シエルが苦しそうにそう伝えてくる。  シエルにとってこの行為は、何のための行為なんだろう。  俺はその答えが……知りたい。  シエルに俺の中を全て埋め尽くされる圧迫感。シエルの最も熱く太い場所が、俺のいちばん深いところまで届く。  内側から全てを聖気で焼き切られるような激痛に、視界が真っ白になっていく。 「ぁ、ああッ、ぐ、……!!」 「ルカくん、大丈夫……オレは絶対にルカくんを壊したりなんか、しないから」  シエルは痛みに耐える俺の額に、頬に、何度も何度も愛おしそうに唇を寄せた。乱れた俺の髪を撫でる手つきは、どこまでも過保護で、やさしくて。  その手のやさしさをどこか懐かしく感じて、俺は少しだけ安心した。 「ね、だから……一緒に、愛し合うふりをしよう」  吐息の混じる囁きと同時に、シエルが腰をぐっと引き締めて、そして――深く、深く、中を擦り上げるようにうごき始めた。 「うぁああッ、ぁあ、あッ……!!」  意識が飛びそうになるほど強い快感は、激しい痛みを伴って俺の身体に刻みつけられていく。  それは俺自身がシエルのものになっていく証のようで。  ああ……これが、愛し合うふりなんかじゃなければ良いのに。  俺の知りたかった愛そのものだったら、良かったのに。 「ルカくん、大好き。ルカくん……」    シエルはずっと、そんな愛の言葉に似たセリフを吐きながら、俺の中でうごき続ける。  そしてその度に、シエルの言っていた通り、痛みが少しずつ和らいで楽になっていくような気がして。  その代わりに、今度は内側からはじけるような快感がとめどなく溢れてきて、頭も身体も、おかしくなりそうになる。 「ぁ、ああッ、シエ、ル……っ」 「うん……ルカくんは、ずっとそうやって……オレを名前で呼んでくれてたよね」  ……なんだ、それ。知らない、そんなこと。俺は今まで一度だって、その名前を呼んだことはない。 「ねえ、ルカくんは、さ……どうしてオレのこと、すきになっちゃったのかな……」  何を、言ってるんだ。  俺がいつ、君を好きになったって言うんだ。 「オレはルカくんといられれば……それで良かったのに。それだけで、幸せだったのに……」  俺には、当然その言葉にも心当たりはない。  シエルと過ごしたのはたった数日のことで、そんな風に想われるほどの時間を共にしていないから。  だけど、その言葉から感じたのは。  何よりも大事な者を想う、純粋な愛だった。  

ともだちにシェアしよう!