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第9話
自室でベッドに腰かけ、空間にある荷物を整理していると、ノックする音がした。ティルだろうな、と思いつつ返事をすると、やはりそこに彼が立っていた。
「どうしたの」
「いや、話でもしようかなって」
「俺は話すことないけど」
「そう言うなよ」
すたすたと入ってきて、リュートの横に座るティル。ぎし、と音を立ててベッドが沈む。
「……どうしたら、お前の心が手に入るんだ?」
「急に何」
空間を閉じて、ティルの方を向く。目が合って、気まずくなって、逸らす。
「俺、お前にマジで惚れてんだよ」
「……」
「でもお前は、俺のこと嫌いだろ?」
言葉を返せない。完全に嫌いとも言えないし、好きとも言えない。持て余した情だけが心の中にある。ただ、どちらに転んでもおかしくない、分岐点にいるような感覚はある。
それを、彼に言うのは何となく嫌だった。ほら好きなんだろ?と言って丸め込まれて関係が始まるのは、嫌だ。
「俺は、お前が欲しいよ。心も、身体も」
「いつも身体から欲しがるのを止めたらいいんじゃない」
「それは難しいな。お前が可愛いから。今だってほら」
と、彼の指の示す先をうっかり見てしまって……顔を背けた。何を見せられてるんだ俺は。
「リュート」
名前を呼ばれる。心がざわつく。やめて。
ぎし、とベッドが軋む。迫る気配。息遣い。もうそこにいる。振り返られない。
「……リュート」
耳元で声がする。だめ、そんな所で囁かないで、息もしないで。心が揺れる――
耳朶を唇で挟まれて食まれる。急な感覚に肩に力が入る。何するの、と振り返ってしまって、キスで口を塞がれる。もう何回も……不服だがしてしまったから、感触も覚えてしまった。そして、口内から与えられる快楽も。
「んぅ……」
「ん……可愛い」
キスの合間に囁かれる。可愛いと言われて一瞬満足してしまった自分の愚かな感情を、ぐっと沈める。
ぷは、とキスが終わって離れて、荒い呼吸を整える。今日はまだ勃ってない。まだ大丈夫。耐えろ俺。
吹き飛ばせばいいんじゃない?口も自由になったし。
いや、でも。痛そうだし。可哀想だよ。
……本当にそれだけ?
脳内に浮かんだ自分の声を切り捨てる。違う、本当にそれだけだ。他に一体何が。
「余計なこと考えるな……寂しいだろ」
ティルが、リュートの顎を持つ。無理矢理視線を合わせられて、頬が熱くなる。
「俺を見て、感じてろ」
「……嫌」
「はいはい」
顎を持っていた手を、すっとそのまま首に滑らせて、旅装のベルトから上着を引き抜く。がばっと服を持ち上げられて、肌が晒される。
「やっ……」
服を下ろそうとしたが、ティルの方が少し早かった。顔を胸の中心に寄せて、舐める。
「ひうっ」
「へえ?」
楽しげなティルの声。
「お前、胸感じんだな」
「ちがっ」
「違わねぇだろ」
再度舐められ、反対側を指で捏ねられ、じわっと甘い疼きが走る。
「ひあっ……い、だめっ」
ティルの頭を両手でどこかに押しやろうと押すのだが、身体に力も入らないし、頑として動いてくれないし。その間も舐められ摘ままれ、それだけで頭が朦朧としてくる。
「てぃ、るっ……だ、やめ」
「名前、もっかい呼んで」
ぎゅっと再度摘ままれ、やっ、と甲高い悲鳴を上げる。そしてそのまま、
「てぃるっ……」
一体自分のどこからそんな甘ったるく名前を呼ぶ声が出るのだろうか。不思議で仕方がない。だが彼はとても満足そうに胸から顔を離して、もう一度キスをした。
「可愛い。その声堪んね」
はあ、はあと、肩で呼吸する。ティルは、今度は堪え性もなく勃ってしまったそこに、手を這わす。
「あっ」
「あんだけ悦がれば、そりゃそうだよな」
「ちがっ……いくないっ」
「へえ?」
手を伸ばして、また胸の中心を摘ままれる。ひぁ。とまた声を上げて、な?と言われる。悔しい。
「脱がせていい?」
「いやっ」
「じゃあ服越しに触ればいいのか?服の中で射精すると後始末だりぃぞ」
「ださない!」
「無理だろ、こんなぱんぱんにしといて」
もう一度手の平を滑らせるティル。びく、とそこが反応して、逃れられない熱の解放を強く望んでいることが察せられる。旅の間抜くこともないし、そりゃそうだ。
出したい。
だめ、出すなんて。絶対だめ。この人の思い通りになるのは。俺の心が追いつかない。
でも出したい。辛い。
――辛いのは俺じゃなくて遍く民だ。俺のすべきことを忘れるな。こんなところで悦楽に浸っている場合じゃない。
無辜の民を思い出すことで、すっと熱が引いて行く。すっと縮んでいったそれを見て、え?とティルが首を傾げている。リュートは上着を下ろして、ついっと横を向いて寝る姿勢に入る。
「お……おい、何だ?何でそんな急にすん、ってなるんだ?」
「おやすみ。ちゃんと自室戻ってね」
「……ああ?ああ……いやどうなってんだ?おい!」
目を閉じる。一枚しかない掛け布団を取って、リュートはティルを置いて眠った。ざわつく頭を収めるために。
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