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第16話
水の領主に挨拶をして、早々に出立した。色々あったな、と振り返って水の村を見納める。どうか、この村に精霊の恵みがあらんことを。
前を向き直って、ティルの横に並ぶ。彼の顔を見上げると、視線を合わせて笑ってくれる。それに薄っすらと笑みを浮かべて応えると、ティルがリュートの額に口付けをする。リュートはそれを受け止めながら、窺うように言った。
「……で、勃たないのね」
「……そうだな」
そう。祠でわかったこと。ティルの勃起不全。前ならこんな軽度のスキンシップでもがんがん発情して、ヤらせろ襲わせろと騒いでいたのに、すっかり静かなものである。何となくリュートはティルの股間辺りに視線をやって、恨めしい気持ちになる。
ふと空を見上げると、夕日が沈もうとしていた。水の村を慌てて出てきてしまったから、半端な位置での野営になる。気付けば川の流れる景色は遠くなり、ごつごつとした岩場が多くなる。そう言えば水の領主が火山の活性期に入っているという話をしていた。滞りなく祠に辿り着ければいいのだが。
岩場の少し平らな所を選んで、焚火を組む。川で魚とはいかないので、今回は大人しく空間から食料品を取りだす。
「ティルは何食べたい?」
「俺か?そうだな……肉かな。あんのか?」
「地の村で獣の干し肉頂いたから、それでよければ」
「お!いいのあんじゃん。それ貰うわ」
リュートは干し肉が苦手なので、食べてもらえて助かった。取り出して、ティルに渡す。それなりに大きな干し肉を少しずつ千切ってティルが食べていく。たまに焚火で炙ったり。
リュートは、缶詰の果物や、地の村で貰った保存食を頂く。柑橘の香りがする鶏ハムはなかなか美味しかった。
もぐもぐと食べ進めていると、ティルがどこか不思議そうにリュートに尋ねた。
「お前、抱かれたいの?」
口に入れていたものを吹き出しかけて、慌てて飲み込む。突然何を聞き出したのかこの人は。だがティルは、だってよ、と続ける。
「俺が勃たないこと気にしてるし」
「……」
答えづらい。今まで散々、吹き飛ばし、蹴り上げしてきたのだ。今更どの面下げて、である。だが言わないと伝わらないというのは、ティルがリュートの好意をすっ飛ばしていることからも明らかだ。恥ずかしくても、言わねばならない。頬を赤く染めつつ、リュートは言った。
「抱かれたいよ」
そう告げると、ティルは心底不思議そうに首を傾げた。
「何でだ?お前死ぬ程嫌がってたじゃねーか」
「何でって……」
答えられない。君が好きだからと言ってしまえば、彼の心を得てしまえば、未練が残る。その未練は、為すべきことの前で、迷いになり、前に進めなくなる。誤魔化すしかない。
「抱かれてもいいかなって、思ったんだよ」
「……お前が?んな軽い理由で?」
疑われている。それはそうだ。これまでのリュートの姿と、言っていることが一致しない。だがもう、こう言うしかないのだ。例え、多少なりとも失望されても。
「君の手練手管を買ってるんだよ」
「……まあ、いいや。言いたくないなら」
「……」
「お前、嘘向いてないぞ」
誤魔化しきれなかったらしい。つい、と視線を逸らして、リュートは気まずげに缶詰の桃を口に入れた。
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