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第20話

翌朝。祠に出向いた。 昨夜は宿も領主の館も破壊されていたので、村の隅っこでマットを敷いて寝た。星が本当に綺麗だった。山間で空気も澄んでいるからだろうか。 「背中痛ぇな」 ティルが腰の辺りを擦りながらぼやく。確かに、火山地帯の地面なので、ごろごろと石が埋まっている。マットを敷いても貫通する石はあるわけで。そりゃあ背中も痛い。 「仕方ないよ。贅沢は言えないから」 「それはわかってっけどな。あー……いって」 「どこ?」 「肩の下あたり」 リュートは手の平をそこに翳して、小さく呪文を唱える。白い光がふわっと漂って、ティルの背中に消えていく。するとぐるぐると肩を回して、ティルが言った。 「痛くねぇ」 「よかった」 「ありがとな」 そう言って、ティルが腰を屈める。あ、と思ったときには、キスをしていた。触れるだけの、そっとした。 「……もっとしてくれていいのに」 ぶすっとリュートが言うと、ティルは少し照れくさそうにした。 「今まで何も考えずにお前のこと欲しがってたけどさ」 「うん」 「好きだ、大事にしたい、って思ったら、おいそれと手出しできねぇなって」 「何でそうなるの!?」 思わず声が大きくなる。リュートがそう言うと、ティルはそういや、と言葉を続ける。 「でも今ちょっとぴくって来たぞ」 「本当?」 リュートは、思わずそこを見てしまう。いや、何も見えないのだが、そう言うから。 (……我儘なんだよな、俺の) 結局のところ、そうなる。だってリュートは、帰って来られないかもしれない自分の思い出に、抱かれたいと願っている。こんなに自己中心的な理由はあるだろうか。大体ティルはその話を知らないのに。 一瞬考え込んでしまったところを、ティルが顔を覗き込んで、大丈夫か?と尋ねてくる。 「うん、中に行こう」 いつものように明かりの術を絞って唱え、下りていく。三度目ともなるとさすがに見慣れてくるその台の前で、しゃがみ込んで呪文を唱える。赤色の石が、ふわりと漂って、リュートの手元に落ちてきた。 『裁きを望む者』 リュートの頭に直接語り掛けてくる精霊。リュートはそれに、はい、と頷く。 『其方の魔力は心地良い。力が足りず暴走させた霊山は、抑えよう』 「ありがとうございます」 精霊がそう言うなら、もう火山の方は大丈夫だろう。念のため、ひと月は防壁を残す方向で……いや、作物の管理に雨が必要だ。火の領主と相談して、残すかどうか考えよう。 赤色の石を空間にしまうと、先に置いてあった石と共鳴するように瞬く。封印期間も長かったから、久しぶりの再会なのだろう。 「リュート」 「ん?」 ぐいっと手を引かれ、ぽすん、とティルの腕の中へ。鎧の固さはあるが。 「何?どうしたの?」 「何か……むらって来た」 「ここで!?」 何でよりによって祠の中で。せめてもう少しロマンチックにベッドの上とか、夕日の沈む公園とか……と、考えていると、 「キス、させろ」 耳元でそう囁かれる。下腹がじわりと熱くなる間隔に頬を染めながら、ティルに顔を向けて、受け止める。最初は触れるだけ、次は啄んで、最後に食べるように覆いかぶさられて。どこか慣れたような順番のキスが好きで、喜んで舌を差し出す。じゅっと吸われて、んっ、と声を上げる。 腰から尻を撫でられ、ぎゅっと身体をティルの鎧に押し付ける。だめ、おっきくなる。 ティルがキスを止めて、はっ、と息を吐きながら、言った。 「……勃ったかも」 「本当!?」 リュートがそっとそこに手を這わす。本当だ、見慣れた膨張だ。 「よかったね」 心の底からそう言うと、ティルは辛そうに眉を顰めてから、 「わかったから擦るの止めろ。久々過ぎてうっかり出すぞ。制御できる自信がない」 「服の洗濯大変だから、やめとくね」 手を離して、本当によかったなと思う。ティルの男性としての尊厳の問題と、自分自身の問題と。 「……抱かれたいのか?」 いつか聞かれた問いかけ。リュートは一つ頷いて、ティルを見返す。俺に思い出をちょうだい。 「……そんな切実な顔されるとな」 「……だめ?」 「お前が望むなら、いくらでも。ただ火の村はあんな感じだし、道中も環境が良くないし、結局何だかんだで風の村だと思うぞ。いいのか?」 それは仕方がない。リュートも野外でする趣味はないし、落ち着いた場所の方がいい。 「じゃあ急いで風の村行こう」 「お前のその切替何なんだ」 「あ。でも」 「ん?」 「火の村の復興の手伝いはしていきたい。俺は魔導師だから、何か力になれたらと思って」 リュートがそう言うと、ティルが膝をついて、頭を下げた。 「高潔なる我が主の仰せなら」 「もう。そういうのやめて」 顔を上げたティルと、顔を見合わせて笑う。祠に笑い声が反響していた。

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