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第21話

火の村に戻る。今日も朝から家の木材や瓦礫、振って来た噴石の撤去に勤しむ村人たち。その顔には疲労が滲んでいて、リュートはすかさず一人の男性に駆け寄った。 「大丈夫ですか?」 「あ?何だ?あんた」 「もしよかったら、お手伝いさせて下さい。何かできることがあるかもしれません」 そう言って頭を下げると、そうだなぁ、とその男性は空を仰いで、それから冗談めかして言った。 「うちの屋根でも、生やしてもらえんかね?」 「わかりました」 「わかりました?」 リュートは天球儀を呼び出す。そして、この家の過去の情報を読み取る。元の形を天球儀に記録させ、術を発動。すると時間が巻き戻るように、折られた外壁の木材が戻り、屋根も復元されて行く。隣に立つ男性は呆気に取られて固まっていた。 「どうでしょうか。外観だけしか復元できませんが……」 「いやいやあんた!すごいよ!一体どんな手品なんだ!?」 「魔導師でして」 「まど……リュート様!?」 「はは……」 火の領主が一体村人に何を吹き込んでいるのかわからないが、喜びの表情から明確に尊敬の表情に切り替わる男性。 「リュート様」 火の領主がやって来る。それに小さく頭を下げると、火の領主が言った。 「悪いね。手伝わせて」 「いえ、家屋の復元の手段は記録したので、村全体の復元も可能だと思います」 「……本当、どうなってんだ?魔術って」 火の領主が呆れ半分にそう言う。 魔術とは、そもそも神秘の力だと言われている。雑に言えば、何でも引き起こせる。但し理論はいる、と言う感じだろうか。 リュートはその辺を初代国王が記したと言う魔術書で勉強した。魔力があることを自覚したのは、随分幼い頃だっただろうか。 「大丈夫なのか?」 ティルが寄ってくる。 「村全体って、結構広いぞ?お前が無尽蔵の魔力持ってても、辛いんじゃないか?」 「俺より、民の方が苦しいはずだから。俺が少し辛いくらい、なんてことないよ」 「我が王は、自分の身を軽視しすぎだ」 小さく微笑んで、リュートは呼び出していた天球技を掲げる。ふわりと浮かんだそれはくるくると回転し、村の過去の情報を読み取っていく。そして、かっと光を放つと、次の瞬間には噴石の痕跡もない村がそこにあった。 う……と言いかけて、堪える。魔術の範囲が広くなることと、復元と言う過去の情報に接続する術は、それなりに魔力を喰うだけではなく、反動で多少の吐き気がくる。それを張り付けた笑顔で誤魔化して、喜びに沸く村を見回す。これがあるから、やってよかったと思うのだ。自分が吐きそうになるくらい。 「川が!流れてる!火山灰も消えてる!」 「噴石がなくなってる!」 「家が!」 至る所から喜びの声が聞こえてくる。火の精霊も火山を抑えると言っていたし、防壁は不要だろう。解除しておく。差し出していた魔力が戻ってきて少し吐き気も楽になるが、それでも喉元に上がってきたものはすぐに消えてくれなくて。 「領主」 「何だ?騎士団長」 一安心して表情の解れた領主が、首を傾げる。そしてひょい、とティルに横抱きにされた。 「え?」 「我らが王は休みたいらしい。館のベッド借りてもいいか?あと顔を洗いたいらしいから、桶も」 「おう、いいぞ。桶は屋敷入って右側の水場に置いてある。水は――」 「ああ、後はいい。適当にやるわ」 リュートを揺らさないようにティルが運ぶ。館に入って、リュートをベッドに寝かせたと思うと、桶を持ってきて、言った。 「吐くなら吐け」 「なん……」 「うっ、って顔してただろ。魔術の反動か知らんが。空間に水持ってんだろ?それ出しとけ」 言われるままに水を取り出して、桶に顔を突っ込む。ティルが背中を擦ってくれて、胃の中身を出してしまう。出した水で口を濯いで、ティルがそれを持って外に出て行った。館の裏に森があるから、そこに埋めてくるのだろう。 口の中がまだ少し気持ち悪くて、水をもう一口飲む。ぼふん、とベッドに倒れ込んで、天井を眺めた。 (ティルはよく見てるなぁ) まだお互い敵対していたときも、リュートが不安そうな顔に弱いということを知っていた。元々、よく見ている。面倒見のいい人なのだ。 (でもそしたら、何であんなに軽薄だったんだろう) そこがよくわからない。今のティルを見ていると、何らかの演技だったのではとすら思ってしまう。 「桶は壊したぞ。さすがに戻すわけにいかねーし」 言いながらティルが戻ってくる。リュートはそれに少し驚きながら、 「火の領主に謝らなきゃ」 「あいつらお前の信者だし、大丈夫だろ」 「そう言う問題じゃないよ……」 リュートはベッドに横たわったまま、ねぇ、とティルに話しかけた。 「何だ?」 「……どうして、あんなに軽薄な仕草してたの?」 意表を突かれたのか、ティルが目を丸くした。それから気まずそうに視線を逸らして、 「何でもねぇよ」 と誤魔化しにいく。リュートは、いつか彼に言われた言葉をそのまま返す。 「嘘、向いてないよ」 「っ!」 がしがしと髪の毛に手を突っ込んで、ティルが観念したように話し出した。 「……昔な。一緒に暮らしてた男がいたんだ。仮に白兎ってことにしといてくれ」 「え……」 もう初手からリュートは、意外過ぎる真実に、そして、ティルがかつて一緒に暮らしてもいいという男がいたことに、動揺していた。 「白兎は色町の奴でな。多感で、鳴く顔が可愛くて、すっかり気に入ってな。身請けしたんだ。なけなしの給料叩いてな」 胸がずきずきと痛む。鳴く顔が可愛くてって、それ俺にも言ってたよね? 「それから数年一緒だったかなぁ。でも、死んじまった」 「……」 急展開が過ぎる。何でそんなことに。 「同じ色町の奴に、幸せそうにしてるのが気に入らんかったんだと。刺されてな。身体は証拠隠滅で隠されて、探せずじまい。弔いもできなくてさ」 「……そんな」 「黄泉の国まで白兎を追えなかったよ。でもそうして別れてから、マジだったんだなって思ったら、もう誰かを本気で好きになんてなれねぇし。もう失いたくないしな」 「……」 もう一度、吐きたくなった。俺は、こんな喪失を抱えている人を、置いて行こうとしている。何も知らせずに。 (……でも、俺は) 「マジにならなきゃ気が楽だってのもわかっちまったしな……お前には、悪いことしたと思ってる」 「いいよ、俺はもう気にしてない。でも……」 ちらりと過ってしまった嫉妬の影を消せなくて。リュートは、恐る恐るティルに問いかけた。 「その兎さんと俺は、似てるの?」 聞いてしまったからには、答えを聞かなければならない。でも、聞きたくない。言わなきゃよかった。でも言わないとずっともやもやする。どうしようもない。 ティルは、どうだろうなぁ、と曖昧に答えた。 「似てるのは肌の白さくらいだな。後は全然。特に性格。お前性格悪いし」 「何でそんなこと言うの!」 布団から手を伸ばしてティルの腿を引っ叩く。はは、とティルは笑って、そっとリュートの頭を撫でた。 「灰金の髪、彩度の低い紺色の瞳、抜けるような肌、風に靡くローブ……こんな美しい生き物が存在しているなんて、って思ったよ。白兎以降、まともに恋愛もしてなかったし。お前に、惚れたんだよ」 「……」 気恥ずかしくて、布団を目の際まで被る。するとそれを捲られて、顔を覗き込まれる。 「顔色、よくなったな。出立どうする?」 「少し、休みたいかも。このまま寝てていいか、火の領主に尋ねてもらえる?」 「仰せのままに、我が王よ」 「もう、それやめて」 ふふっと顔を見合わせて笑って、ティルが出て行くのを見送る。静かに目を閉じて、村の歓声を聞いた。

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