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第23話
部屋に入る。風車が回る音が、ぎしぎしと響く、そんな部屋。将来の王のための部屋というそこは、確かに調度類はいいものが並んでいる。ティルが背負っていたリュックをばさっと床に落として、ぐいっとリュートの手を引く。
「あ……」
抱き留められて、ティルの胸から彼の顔を見上げる。見下ろしてきたティルは無言で、だがそれ故により雄弁で。頬が熱を持つ。気を紛らわすように、あの、と声を出す。
「先、お風呂とか」
「どうせぐちゃぐちゃになるから、後のがいいだろ」
「ぐちゃぐちゃ……」
何をどうしてそうなるのかを一瞬考えて、臍の下が疼く。だめ、早いよ。
「……緊張するよなぁ」
リュートに回した腕に再度力をこめて、ティルが言う。
「今日はどうやって吹っ飛ばされるんだ?俺」
「もうしないって!」
過去のことを持ち出して、ティルが笑う。リュートも、もう!と言いつつも頬は緩んでいて。力の入っていた肩が、少し楽になった気がした。
はた、と笑い声が止まる。ぎしぎしと風車の回る音がする。視線が絡んでしまって、解けそうにない。
「抱くぞ」
ティルのその宣言に、全身が粟立つような感覚が走る。どうしようもなく期待して溶けかけた身体で、リュートは一つ頷いた。
ひょいと横抱きにされて、そっとベッドに下ろされる。なるほど、たしかにスプリングの効き具合といい、布団の柔らかさといい、高そうなベッドだ……って、そんな場合じゃない。
ティルが履いていたブーツを脱いで、リュートのもさっさと脱がせて。蒸れてないかなと一瞬不安になって、二人の足元にこっそり浄化の呪文を投げておいた。
「お前の瞳って、綺麗だよな」
ぎし、とベッドを軋ませて、ティルがリュートの上に伸し掛かる。彼の影の内側で、リュートは小さく首を傾げた。
「え?」
「初めて見たときから思ってた。ラピスラズリのような、そうでないような。神様がお前を作る時に宝石を使ったんだろうなって」
「大袈裟だよ」
そんなこと言ったら、ティルの瞳は太陽の欠片で出来ている。神様が、人を温かく照らせる君に、その欠片を埋めたんだ。
言えばいいのに、言葉がつかえる。何を言っても、遺す言葉にしかならないから。流れていく言葉を選んで、彼に伝える。
「ティルの瞳も、綺麗だよ」
「そうかぁ?昔爬虫類みたいって言われたけどな」
「見る目ないんだよ、その人」
極々真面目にそう言うと、ティルがふっと頬に手の平を当てる。じんわりと熱を持った手。ああ、この人はこんな話の間も、熱を滾らせ、欲を持て余している。
「……いいか?」
「いいよ」
短い同意。ティルの呼吸が鼻先にかかったのを感じながら、柔らかい口付けに溺れる。とぷ、と落水するように。ただ、もう遠慮することはないから、舌を絡め、求め、呼吸を混ぜる。ぐちゅ、と潰れるような水音が耳を犯す。
「っは」
リュートから口を離すと、もういいのか?とティルに尋ねられる。何で?と問い返すと、口を犯し足りないと言われた。リュートは両腕を伸ばして、ティルにもう一度口付ける。足りないのなら与えるだけ。
上顎をなぞられてくぐもった嬌声を上げ、舌をなぞられて堪えきれずにティルにしがみ付く。
「んっうぅ……」
鼻から抜けるように喘ぐと、ティルがそっと解放する。唇、腫れてないといいけど。
「やっぱり、可愛いな。お前」
「え?」
ティルが、耳にわざと音を立ててキスをする。ぞくりと背筋をしならせ、小さく灯った欲が煽られる。
「ティル……」
「俺さ、何回もお前を夢で犯したよ」
そう言って、リュートの耳を口に含む。舌でなぞり、水音を立てて。
「っ、ぁ」
小さく声を上げる。反対側の耳を親指でさわりと撫でられ、顔を一瞬横に振る。
「夢ですら可愛いと思ってたのに」
お願い、耳元で言わないで。
「現実はもっと可愛いんだもんな」
ティルの手が、上着の中に入って、リュートの胸を撫でる。ティルは身体を起こして、リュートを見下ろした。俺は今どんな顔をしているんだろう。
「蕩けた顔」
「……声に出てた?」
「出てないけど、顔に書いてある」
「えぇ……」
ぺたぺたと自分の頬を触ってみるが、書いてある感じではない。そんな正確に読み取られるなんて。
上着を首元まで捲られ、部屋の空気に胸が触れる。それだけでぐっと固さを持ったそこが、ティルに主張する。触って欲しいと。
「どうしようか?」
ティルが言いながら、するりと中心を避けて指先を滑らせる。たまに引っかかるように触れて、びく、と身体が揺れる。堪え性もなく勃ちあがったそれが、じわりと先端を濡らす。
「あ」
「触って欲しい?」
「……う、ん」
緩慢に頷いたら、ティルがそこを舐めた。突然与えられた刺激に、一瞬視界が揺れる。
「てぃ、るっ……」
ぎゅっと摘ままれ、反対側を舌先で嬲られ、いつかの宿屋の記憶が蘇る。あのときは、どこか絆されながらも、絶対に譲れない線があって。
過去へ遡る間も、気持ちよくて、切なくて、ティルの頭に両手を突っ込む。押さえつけて、もっと、とねだる。
ぐりっと捏ねるように潰され、歯の先で柔く甘噛みされて。
「あっ、ああ!」
旅装のズボンに熱が広がる。あ、達した、と思ったら、靄がかかったような視界の先にティルがリュートを覗き込んでいた。
「脱ごうか」
「……はい」
もそもそと上着を脱いで、ズボンと下着を纏めて引き抜く。べた、とした感触に、洗うの大変なんだよなぁ、と思いながら、そっと床下に置いた。
ぺたん、とベッドに座っていると、自分よりも一回り大きな体躯のティルが、ベッドの上に乗ってくる。
「お前の身体、綺麗よなぁ。前に覗いたときも思ったけど」
「覗くのは本当に最低だと思う」
「悪かったよ」
本気で怒っているわけではない。今となれば、そんな記憶すらも、思い出なのだ。
「何回でもイかせたいけど、初めてだしな。ゆっくり、しよう」
「ん……ありがとう」
頬に、首筋に、耳に、胸に、何度も口付けながら、もう一度押し倒される。ティルがリュートの足の間で、そこに指を這わす。そして眉を顰めた。
「……初めてなんだよな?」
「そうだけど」
「……なんでこんなに柔いんだ?」
何の話だろう。きょとんとティルを見返すと、彼は心底不思議そうに、
「いや、初めての奴って固いから解すの大変なんだが……何かお前のここ」
言いながら、指先をそこに埋める。
「ひぅっ」
「柔らかいんよなぁ……どういうことだ?一人で使ってた?」
「し、ないっ……」
指先の圧迫感で声が途切れる。すっとティルが指先を引き抜いて、自分のリュックの中からローションを持ってくる……
「何でそんな物持ってるの」
「お前と旅するってわかったときから絶対ものにするって思っててだな」
「……」
過去のティルの性欲に感謝すればいいのだろうか。それとも呆れつつぶん殴ればいいのだろうか。真剣にリュートは悩んだ。
ティルが指先にねっとりとそれを纏わせ、リュートのそれの入口を撫でる。ぞわぞわする。そして、圧迫感。ぐっと押し進む度に、は、は、と息が漏れる。いくら柔いと言われても、初めて、排出する方向ではなく挿入する方向に使うのだ。異物感はある。
「大丈夫か?」
「っ、は、たぶ、ん」
「ちょっと動かすぞ」
指をぐるりと回されて、内壁を擦られる。何だろうこの感じ。いいのかな、よくないのかな?判断がつかないままいると、ティルが指をもう一本入れてくる。
「あっ」
声が漏れる。圧迫感の中に、何か違う感触が混ざる。指が抜き差しされて揺さぶられる度に、じわじわと、熱が広がる。
「っ、てぃるっ……!何か、へん」
「可愛い。悦くなってんだな」
「んっ、いい、……?」
するりと指を抜かれる。荒れた呼吸を整えていると、そこに、ずしっとした質量が押し当てられる。これは。これで。
「……本当に、いいんだな?」
ティルが、最後に確認してくる。リュートは薄っすらと微笑んで、応えた。
「きて」
骨盤を掴まれる。押し開かれる。比較にならない圧迫感。かはっ、と乾いた息が零れた。
「悪い、大丈夫か?無理してねーか?」
「ん……」
大丈夫だから、と訴えると、ぎゅっと最後の一押し。
「きっつ……」
「あっ」
「息、吐け。動く前に持っていかれる」
「っ、は、い」
はあ。はあ。と何度か息を吐いてみせる。それでそこが弛緩するとも思えないのだが、ティルが言うから。
「動くぞ」
「ん……」
頷くと、最初はゆっくり、中身を確かめるように、形を覚えさせるように、揺すられる。先程の指で感じた熱がどこにあるのかを思い出しながら、リュートはその感触を追いかける。
ごり、とどこか一点を擦られたとき、先程の熱が蘇る。そこ、と小さくティルに伝えると、もう一度彼がそこを擦ってくれる。
「あっ」
色めいた声色。ティルが、動きを変える。そこを突くように、細かく動く。鋭く何度も悦いと思った箇所を擦られて、視界に星が散る。呼吸もぐちゃぐちゃで、
「あっ、あああっ」
意味のない音を、ただ漏らすだけになってしまう。
幸せ。こんなに幸せでいいのかな。これが多幸感ってやつなんだろうな。
ティルが、リュートの上に伸し掛かる。彼に潰され、抱かれながら――思い出だから、と胸中に浮かぶ。
彼に揺すられ、頭をふらふらさせながら、思う。
そうだ、俺は裁かれに行く。その結果がどうなるかなんて、それこそ精霊にしかわからない。だから悔いのないようにしたくて、抱いてって頼んだ。
――好きだと、言いたい。
途方もない幸福の中で、それを告げることができたら、きっともっと幸せだろう。
だがそれは自分にとっても、彼にとっても、枷である。一生抜けない棘になるかもしれない。
――それでも。
「リュートっ……!」
ティルが、リュートの顔を見ていた。額に浮かんだ汗が、ぽつりとリュートの頬に落ちる。
「……っ、好きだ」
途切れ途切れの言葉の間に、そう告げられる。じわりと涙が浮かんだ。どうして彼の気持ちに応えたら駄目なんだ。俺は、俺は――
「――好き」
つうっと、目から溢れる。
「好き、大好き、ずっと、一緒にいたかった……!」
「いる、いるから。泣くな」
ティルがそっと唇で涙を掬っていく。
――夢を、見ているんだ、きっと。
「リュートっ」
ティルがぐっと腰を押し付けて、吐精する。それを腹の内側で感じながら、ぼーっと、天井を眺めた。
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