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第27話

朝が来た。 のっそりと起き上がって、ティルを揺さぶって起こす。彼ものっそりと起き上がって、伸びる。 空間からたらいを取り出して、水を術で注ぐ。それで口を濯いで、顔を洗って。ティルのために水を入れ直して、彼もそうして。 マットと掛布団を空間に放り込んで。炭になった薪だけが、その場に残った。 もう、何も言うことはない。 「行こう」 「おう」 二人は並んで出発する。終始無言で。気まずい沈黙ではなく、決意の無言。言わなくてもわかる。互いが生存することを、強く望んでいる。 リュートは王統審判。 ティルはレオニール率いる近衛騎士団。 正直、生存と言う意味ではティルも厳しい。近衛騎士団はハルバードを標準装備とする屈強な集団だ。ティルがいくら剣術に長けているからと言って、一人で数の差を埋めることはそもそも困難だ。 それでも彼は、リュートの前に立つという。最後まで壁になって、王統審判の場を守ると。 ――我が剣は、我が王の為に。 彼の繰り返す言葉のまま、ティルはきっと剣をふるう。リュートの魔術があれば一撃で吹き飛ばせる集団だが、王統審判に臨む以上、それは難しい。 王統審判は放っておけば勝手に発生するものではない。審判を望み、魔力を捧げ、四精霊を降臨させなければならない。 そのための呪文は、通常使う呪文とは比較にならないほど長大で、読むだけで時間がかかる。しかも一節ごとに魔力を流し、循環させ、言霊としなければならない。この魔力制御にも時間がかかる。時間を書ければかけるほど、ティルが危険に晒される時間も長いというのに。 王統審判のことが書かれた魔術書は熟読したし、魔力循環と制御も何度も練習した。発動はするはず、大丈夫。そう思っていても、やはりどこか不安はあって。 入口から大平原に入って、何もない広い草原を二人で歩く。もう少ししたら、玉座遺跡が見えてくるはず。見えてきたら、躊躇わず、さっさと呪文を唱えてしまおう。 だが、世の中そう上手くいかない。 玉座遺跡が見えてきて、石でできた初代国王の使っていた玉座が見える。そして、その先に、集団。 「……ティル」 「ああ。わかってる」 ハルバードを持った、近衛の集団。そして、その中心、先頭に、レオニール。リュートは玉座に駆け寄って、その場に立つ。あんな奴どうでもいいのだ。さっさと呪文を唱えて、ヴァイスベルクを終わらせる! 「無視するなよ!」 レオニールが叫ぶ。 「お前が!ここに来るのはわかっていた!だから数日前からここに布陣していた!」 それはご苦労なことだ。野営など慣れていないだろうから、近衛騎士団がせっせとお守したに違いない。 「そしてまんまとお前は現れた!」 まんまと、というかここが最終目的地で、まんまと現れたのはお前の方では? 「今こそアルトフェルトを終わらせる!真の王統は!我らヴァイスベルクのものだ!」 すっとレオニールが腕を振り下ろした。 「行け!反逆者共を殺せ!」 近衛騎士団が整然と動き出す。俺が吹き飛ばせば終わる。 「リュート、躊躇うな」 「ティル」 彼が、すらっと剣を抜く。そして額に剣を当て、言った。 「――我が剣は、我が王の為に」 そして剣を振って、 「死んでも、お前を守る。為すべきことをしろ」 もう既に泣きたかった。あんな大編成を見ても、この人は勝つ気でいる。リュートの勝利を疑わない。 ならばリュートも、それに答えるだけ。そう思って、すっと息を吸った、そのときだった。ティルの手の届く位置まで近衛騎士団が来る。それを止めたのは、一筋の矢だった。 ばっとリュートは矢の軌跡を逆に追う。その先にいたのは、 「リュート様。申し訳ございません。我ら四領主、我らが主を放っておけず、こうして馳せ参じてしまいました」 頭を下げる地の領主がいた。そしてその横に並ぶのは他の領主たち。 「……!駄目って、言ったのに!」 でも、こんなに胸が熱いのは、もう隠せそうにない。こんなにも心強い。そして、地の領主は重ねて告げた。 「彼らとも合流しましたので」 そう言って大編隊で駆け寄ってきたのは、黒い鎧の騎士団だった。ティルはそれを見て目を見開く。 「お前ら無事だったのか!」 ティルの言葉に、騎士団はティルの前にずらりと並び、陣形を取る。近衛騎士団を威嚇するように剣を構え、次々とティルに笑いかけた。 そして、そっとティルに駆け寄るのは。 「エリオット!」 「頂いたお手紙にて、確かにご命令、受け取りました。直ぐに団員を連れ、城を脱出。そこで四領主の合同軍と出会い、助けて頂きました」 「……そうか、そうか……っ」 リュートには気丈に振舞っていたが、やはり部下のことは心配だったのだろう。余計な不安を与えまいとしてくれた彼の優しさに、離れがたくて、堪らなくて。 四領主の合同軍が騎士団の後ろに並ぶ、全員が弓矢を構え、援護射撃の体制だ。 ティルが高々と剣を掲げる。 「お前ら!我らが王を守れ!但し死ぬな!我らが王は不要の犠牲を望まない!」 応っ、と力強い返答。近衛騎士団がハルバードを突き出す。騎士団がそれを剣で逸らす。小競り合いから、戦闘が開始された。 「リュート!やれ!」 「わかった!」

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