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第30話
戻った先は当然戦場で。玉座遺跡から見下ろす戦場は混沌としていた。誰もまだ、リュートの帰還に気付いていない。ならば。
リュートは大規模魔術を発動、光の魔法陣が無数に近衛騎士団に照準を合わせていく。ぴたりと止まる近衛騎士団。そして、振り返って希望を見た顔で口を開ける騎士団と合同軍。
「戦闘を止めて下さい。ヴァイスベルクは消えました――この世界からも、歴史からも」
うわああっと声が上がる。項垂れる近衛騎士団。次に探すのは当然。
「王よ、騎士団長はあちらに」
騎士団の一人がリュートを先導する。駆け足で向かって、そして。
戦場の端の、大きな木の上。花が無数に咲く草原の上に、ティルは横たわっていた。酷く静かな寝顔で、呼吸も、どこか浅くて。
容体を尋ねようと水の領主を振り返ると、彼女は首を横に振った。
「最早、私の手では……」
「何、どういうこと」
「もう、おらぬということです。我が王よ」
すとん、と膝から崩れ落ちる。いない?まだ息をしているのに?
「傷が深く、脳に何等かの損傷があったものと思われます。王に声をかけて以降――もう、目覚めぬのです」
そんなの、許せるはずがない。天球儀を呼ぶ。記録の中に存在する、最も複雑で、最も困難で、最も発動に魔力を喰う術を、起動する。小さな傷の一片たりとも逃がさない、身体を健康だったときの状態に逆再生する――!
くあっと強い光がティルを包む。あれ?想定しているよりも強い力が流れてる?何で?だがそれに答えるものはない。とにかく集中して、ティルの身体に魔力を流し込む。
「ねぼすけさんだね――!」
そう言って、一番傷の深い腹に強く魔力を流す。
「早く起きて、俺にキスしてほしいな」
ふわりと最後に包むような光が起きて、すうっと収束していく。はあっと息を吐いて、身体の隅々までチェックしていく。創傷は塞がっている。ただ脳に何らかの損傷というのが、わからない。魔術でスキャンをかけても、わかるようでわからない。ただ健康だったときの身体に戻っているはずなので、そこも回復していると思うのだが。
「ティル」
小さく揺さぶる。横から水の領主のすすり泣く声。縁起でもないからやめてほしい。
「ティルってば」
そう言って揺さぶっていると、う……と小さい声が漏れるのが聞こえた。
「ティル」
薄く薄く、瞼が開く。現れた橙の瞳に自分の顔だけを映させて、リュートは言った。
「おはよう。よく寝られた?」
「……ああ、そうだな」
よろよろと手を伸ばして、ティルがリュートの頭に、ぽん、と手を置いた。
「何かな……夢に白い、神とかいうやつが、出てきてさ」
「え?」
「リュートはあちらですよ、って、道を教えてくれたんだ」
「……」
「悪い、って言おうと思ったら、消えててな……何だったんだろうな」
主神です。この国の神です。
(そうか……思ったより強い力が流れてると思ったら……そういうことか)
ようやく現象の謎を掴んで、納得する。そうか……人を愛した神、か、と。
ティルを見つめる。かなり消耗しているように見える。ゆっくり休ませてあげたい。だが、彼は彼で気になることがあったようで。
「お前、審判……」
「うん……大丈夫だった」
周囲に集まった人々が歓声を上げる。我らが王が違えるはずがないのだ!とか、我らが王人徳が故だ!とか、口々に叫んでいる。にわかに騒がしくなったその場で、ティルがただ、静かに、ぽつりと言った。
「……よかった」
「ティル」
「おかえり」
「うん……ただいま」
ぎゅっとティルの手を握る。ティルも、弱々しくもそっと、握ってくれた。
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