33 / 36
第33話
ティルの傷も癒えた頃。新王の即位式が行われた。ただ、そんなに派手には行われない。リュートがそれを望まないし、そんな余裕もないから。
だから本当に身内だけ集めて、王冠を頭に乗せるだけの、戴冠式。
なお王冠だが、これも建国王の魔術なのか、アルトフェルト直系にしか開けない箱の中に入っていた。ヴァイスベルクとしてはいつか開けてその王冠を自分たちで使うつもりだったらしく、保管だけは厳重に為されていた。
ぱちぱちと皆に拍手されて、どこか照れくさくなりながらも王冠がずり落ちないように必死でバランスを取る。落ちないように顎に引っかけるゴムか紐でも付いていればいいのに。するとティルが進み出て、そっと王冠を取り上げる。
「無理すんな」
「うん」
「ずっとつけてるもんじゃないしな。取り敢えず俺はしっかりお前の初姿を心に納めたから。後で絵にして飾ろう」
「本当にやめて」
リュートが言うと、くすくすと四領主の笑う声。本当に恥ずかしい。なんでこんな場所で夫婦漫才見せないといけないんだろう。
「民へお披露目いたしますか?」
水の領主に問いかけられて、リュートは首を横に振った。
「今、民は皆大変な思いをしています」
リュートが国政に入るようになって真っ先にしたのは配給だった。城の備蓄を開放し、水の領主の所から水のタンクを転送し、火の領地から風呂になる大きな浴槽を二つ転送し、城下町に設置した。城下町で死を待つだけだった人々は、よろよろとしながらも配給の列に並び、胃が潰れて食べられない人もいるだろうからと料理人を派遣し、温かいスープの炊き出しもした。
もちろん、これは一時凌ぎ。一生配給するわけにはいかない。民は民で、自分たちの暮らしを守らなければならないのだ。まだ政策としては案の段階だが、採用試験を経て、ヴァイスベルク派粛清の影響で減ってしまった城勤めの者を募集するつもりだ。また、城下町周辺で農業を始める計画もある。城下町周辺の土地には水分が多く、水田に向いていると地の領主からは効いている。城下町一帯を米所とするときに、農夫として働いてもらう予定だ。
だがそれにしたって、先ずは体力を戻す所から。当面は配給を続け、人らしい生活に慣れてもらいたい。
「俺が出向いたところで、彼らの腹は満たされませんから」
「そうですかね?」
風の領主が言った。
「俺は定期的に城下町見に行ってますけど、町中にリュート様の絵姿貼られてますよ」
「え!?」
絵姿?まさか、と思ってティルを振り返る。彼は視線を逸らして知らんふりだ。一体何をした。
「ティル!」
「何もしてねーよ。ただ団員に絵姿持たせて、新王の偉大さを語らせてきただけだよ」
「ティル!ばか!」
もう絶対城下町いけない……民の様子をこっそり見るのが好きだったのに……心底しょんぼりしていると、地の領主が苦笑い気味に言った。
「次回の配給に同行されては?民も元気が出るでしょう」
なお地の領主は新政権で宰相となることが決まっている。国王の外遊などは彼が今後取り仕切る。多忙なリュートの予定を縫っての提案なのがわかるので、素直に頷いた。
「騎士団どれだけ動かす?」
「過剰なくらいがちょうどいいでしょう」
「承知した。リュートには指一本触れさせねーから安心しろ」
「ちょっと待って。俺の護衛に過剰なくらいってどういうこと」
何か時々、彼らのリュートへの感情がどこか必要以上に重々しいような気がするのだが、彼らはいつもこういうのだ。
「気のせいですよ。我らが王」
ともだちにシェアしよう!

