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第4話 本当のDom
俺は、自分がDomとしてかなり出来る方だと思っていた。
白石慶一を抱けば、それなりに派手に崩れる。
強く命じれば素直に従うし、俺が攻めれば甘い声も出る。
終わったあとには「気持ちよかった」と笑う。
だから、俺のやり方で合っていると思っていた。
最初に違和感を覚えたのは、その翌朝だった。
「慶一、コーヒー」
返事が遅い。
ソファに座った慶一は、マグカップを受け取ってもぼんやりしていた。
「眠い?」
「……ちょっと」
俺の肩へ寄りかかってくる。
甘えているのかと思った。
でも、その日は昼を過ぎても調子が戻らなかった。
次も。
その次も。
Playの最中はよく感じている。
終わった直後も笑う。
なのに翌日になると、沈む。
Subdrop。
知識としては分かっている。
ただ、頻度がおかしい。
ある晩、慶一が俺の胸に抱かれたまま眠ったあと、俺は天井を見ながら考えた。
強すぎるのか。
それなら弱めればいい。
次は少しだけ加減した。
それでも翌朝、慶一は俺から離れたがらなかった。
そこでやっと気づいた。
強さの問題だけじゃない。
俺は、何か見落としている。
****
次の週末。
慶一が寝室へ入ってくると、俺はいつものように腕を引いて抱き寄せた。
「今日は少し変えるぞ」
「何を?」
「お前、俺に何か隠してるだろ」
慶一が眉を寄せる。
「何それ」
「今から暴く」
「自信満々だな」
「俺だからな」
まだ笑える。
俺も余裕があった。
まずキスをする。
いつもなら、ここから俺の好きな速度で一気に進める。
今日は止めた。
慶一の頬へ指を添える。
「Look」
目が合った。
「何」
「お前の顔見る」
「今さら?」
「今までちゃんと見てなかった気がする」
慶一が少しだけ黙った。
その反応が引っかかる。
だから、触れ方を変えた。
急がず、ゆっくり。
耳の近くへ唇を寄せ、軽く触れる。
慶一の肩が小さく跳ねた。
「……っ」
俺はもう一度、同じところへ触れた。
今度は息が甘く揺れる。
「Good」
耳元で小さく言う。
「っ……♡」
俺の方が固まった。
「……お前」
「何」
「今の、めちゃくちゃ効いた?」
慶一が顔を背ける。
「知らない」
「Look」
また俺を見る。
頬が赤い。
いつものPlayで崩れた時とは違う。
柔らかい。
「もう一回やるぞ」
「好きにすれば」
強がっている。
だから、同じように優しく触れて、焦らしてから耳元で囁く。
「Good」
「あ……♡」
明らかだった。
俺は思わず笑う。
「お前、こっちの方が好きなの?」
「うるさい」
「図星?」
「……知らないって」
「Good」
「っ♡ だから、今それ言うな」
胸の奥が妙に騒いだ。
これまで何度も慶一を抱いた。
なのに。
こんな反応、知らなかった。
****
少しずつ熱が上がる。
俺は慶一を急かさず、反応を見ながら触れ方を変えた。
欲しそうに近づいてきた瞬間だけ、
「Stay」
止める。
「……藤堂」
「待て」
「意地悪」
「Good」
「ぁ……♡」
まただ。
Rewardを入れた瞬間、慶一の声が明らかに甘くなる。
俺は楽しくなってきた。
「なんだよ。俺、こっちも上手いじゃん」
「自分で言うな」
「でも気持ちいいだろ」
慶一は返事をしない。
俺は焦らす。
じっと待つ。
慶一の方から少しずつ俺を求めてくる。
「……まだ?」
「まだ」
「藤堂」
「Stay」
「っ……♡」
限界まで待たせてから、抱き寄せる。
慶一が俺の肩へ額を押しつけた。
「……こういうの、好き」
俺の手が止まった。
「こういうの?」
慶一がしばらく黙る。
「優しくされるの」
胸の奥に、嫌な予感が落ちる。
「あと、待たされるのも」
「……」
「ちゃんと俺の反応見てくれるのも、好き」
さっきまでの自信が、一気に冷えた。
「じゃあ」
喉が妙に乾いた。
「今までのは?」
慶一が答えない。
それだけで分かった。
****
頭に血が上った。
自分でも分かる。
俺はプライドを傷つけられていた。
今まで何度も。
自分は慶一を満足させていると思っていた。
実際は。
俺が気持ちよくなるやり方に、慶一が合わせていた。
認めたくなくて、以前の強さへ戻りかけた。
慶一の身体を強く抱き寄せる。
「こういう方が好きだったんじゃないのかよ」
慶一が俺を見る。
「藤堂」
「俺が強くするたび、お前だって――」
「お前が好きだからだよ」
言葉が止まった。
「……何?」
慶一は少し困った顔をした。
「お前、強く攻める時すごく楽しそうだった」
胸を殴られたみたいだった。
「だから合わせてたのか?」
「俺も嫌いじゃないよ」
「慶一」
「でも、お前が喜ぶなら、それでいいと思ってた」
しばらく何も言えなかった。
笑いそうになる。
自分に。
「……どっちがDomだよ」
慶一が目を伏せる。
俺は額を押さえた。
情けない。
Subを満たしているつもりで、自分の欲を先に出して。
そのSubに、逆に気を遣わせていた。
「悪かった」
慶一が顔を上げる。
「藤堂」
「俺、お前のDomになれてるつもりだった」
口に出すと、余計に刺さった。
でも逃げたくなかった。
俺は慶一を見る。
「もう一回やらせろ」
「……え?」
「今度はちゃんと、お前のDomになる」
慶一の目が少し揺れる。
俺はその頬へ触れた。
「俺が欲しい答え言うな」
「うん」
「お前が欲しいことだけ言え」
少しだけ間があって。
慶一が俺の手へ頬を寄せた。
「……優しくして」
胸が熱くなる。
「Good」
慶一が笑った。
「あと」
「うん」
「焦らして」
「Good」
「でも最後は、いっぱい欲しい」
俺まで笑った。
「欲張り」
「嫌?」
「最高」
****
そこからは、全部が違って見えた。
優しく触れる。
慶一が反応する。
その反応を読む。
急がない。
「Look」
俺を見る。
「ここ好き?」
「……うん♡」
「Good」
身体が震える。
少し待たせる。
慶一が欲しそうに近づいてくる。
「Stay」
「もう……♡」
「まだ」
「藤堂♡」
「何が欲しい?」
慶一が少しだけ恥ずかしそうに笑う。
「もっと優しくして♡」
胸の奥がぞくっとした。
「Good」
「あっ♡」
こんな声を。
俺は今まで知らなかった。
俺に抱かれているのに。
俺が知らなかった。
「もっと言え」
「もっと♡」
「何してほしい?」
「ちゃんと見てて♡」
「見てる」
「焦らして♡」
「うん」
「でも、最後はいっぱい……♡」
声がどんどん甘くなる。
頭がふわふわしているのが分かる。
慶一が俺を信じて、欲しいものをそのまま出している。
その事実が。
めちゃくちゃ気持ちよかった。
「……やば」
「なに♡」
「俺、今まで何してたんだよ」
慶一が小さく笑う。
「反省してる?」
「してる」
「ほんとに?」
「してるけど」
俺は慶一を抱き寄せる。
「これ、マジで最高」
慶一が笑った。
「結局そうなるんだ」
「だって、お前が俺に欲しいって言って、それを俺が当てて、お前がこんな顔になるんだぞ」
胸が熱い。
「Domとして、こんな気持ちいいことあるかよ」
慶一の目が細くなる。
「じゃあもっと」
「何を」
「俺のこと、ちゃんと気持ちよくして♡」
完全に戻った。
俺の自信。
ただし、さっきまでとは違う。
「任せろ」
****
最後は、俺も余裕がなかった。
慶一の声が甘くなるたび、もっと聞きたくなる。
「藤堂♡」
「うん」
「もう、限界♡」
「Look」
慶一が俺を見る。
目が潤んでいる。
でも、笑っていた。
「気持ちいい?」
「うん♡」
「幸せ?」
慶一が迷わず頷く。
「うん♡」
胸の奥が一気に熱くなった。
これだ。
俺が欲しかったのは。
自分のやり方を押し通して崩すことじゃない。
目の前のSubが、本当に欲しいものを俺に預けて。
それを俺が受け取って。
ちゃんと満たせている。
その実感。
「Good boy」
慶一の身体から力が抜けた。
「っ……♡」
俺も笑う。
「やば。これ最高」
「藤堂……♡」
「俺も限界」
「一緒に♡」
最後は。
二人とも笑う余裕なんて残っていなかった。
ただ、互いを抱いたまま。
同じタイミングで限界を越えた。
****
少しして。
慶一は俺の胸に頬を乗せていた。
俺は髪を撫でながら、さっきから何度も顔を見てしまう。
「慶一」
「ん?」
「……無理してない?」
慶一が少し驚いたあと、笑った。
「するかよ」
「ほんとか」
「俺、今めちゃくちゃ満たされてる♡」
その言葉が。
さっきまでのどんな声より効いた。
「……やべぇ」
「何」
「俺今、マジで最高の気分」
「自分が気持ちよかったから?」
「それもある」
慶一が吹き出す。
俺も笑った。
「でも、お前をちゃんと幸せにできたって分かる方が、もっと気持ちいい」
慶一の表情が柔らかくなる。
「良かった♡」
思わず指で頬を撫でた。
「それ」
「何?」
「今の顔、マジでいい」
慶一が照れる。
俺は笑った。
「Good boy!」
「あっ♡ もう!」
「まだ効くじゃん」
「お前が言うからだろ♡」
「じゃあもう一回」
「調子乗んな」
「Good」
「っ♡」
二人で笑う。
俺は慶一をもう一度抱き寄せた。
強くするのが好きな俺もいる。
焦らすのが好きな慶一もいる。
どっちかを捨てる必要なんてなかった。
ただ。
俺がちゃんと慶一を見て。
慶一が欲しいものを受け取って。
その上で。
俺が思いきりDomをやればいい。
「藤堂」
「ん?」
「次も、ちゃんと見てて」
俺は笑う。
「任せろ」
今度は。
胸を張ってそう言えた。
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