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第4話

 調子の悪い蛍光灯のように、断続的に意識が戻ることがあった。  爪の先でつけた傷ほど細い視界の中、窓の外で、雪をかぶった針葉樹の森がびゅんびゅんと後ろに流れていた。おそらく車の中。今は後部座席に横たわっている――崩れそうな意識が闇から浮上し始めているのを感じた。現実の世界へと繋がる水面に、もう少しで触れられる。しかし寸でのところで、醜悪な幻覚と幻聴がニコラの意識を水面下へと押しつけた。現実が歪んでいく――窓の外を流れていた景色が突然、白と黒の醜悪なまだら模様に変わった。その模様は歪み、蠢き、死んだ母や生気のない父の顔となったかと思うと、『パピルス』の襲撃で怪我を負った人々の顔、広場で出会った少女の顔にもなって迫って来る。 『お前のせいだ』  ニコラは両手で顔を覆って叫んだ。これは幻覚だ。幻聴だ――しかし、恐怖と胸の苦しさに嘘はつけなかった。いっそ闇に沈みたい。頭の中ではドラッグの霧が充満し、思い出したくない記憶が何度も映し出された。見たくない。瞼が痙攣し、眼球がぎょろぎょろと動く。横たわったまま、げぇと嘔吐した。自分の吐瀉物に塗れながらニコラは涙を流した。  苦しい。助けてくれ。俺のせいだ。だけど助けてくれ。俺がいなければ。助けるに値しない人間だ。俺さえいなければ――やがて疲弊し、ようやく失神する。  それを何度か繰り返した末、今、また目を覚ました。  目を開けられなかった。もう二度と目覚めたくない。正気に戻れたとして、待ち構えている世界は容赦してくれないだろう。このまま闇の中にいたい。ずっと、永遠に――そう願っていた時、ふと、刺すような冷気を感じた。  ニコラの意識は、水面下から勢いよく引き上げられる。  光が見えた。その先には灰色の空と、渦巻く雪。怒声のような風の唸りにニコラが首をすくめると、その風の音を掻き消すように、力強く雪を踏みしめる音が聞こえた。ゆっくり目を開ける。そこには白い息を吐く鼻先と、髭に覆われた口と顎――雪に顔を打たれるスピノーネがいた。ニコラはぼんやりと彼を見上げ、その温かい吐息を顔に受けている。身体に浮遊感があった。両足がぶらぶらと揺れ、尻が少し落ちているのがわかる。両膝の裏と、背中、そして脇の下に逞しい腕の圧迫感があった。 「もうすぐですよ、ニコラ。聞こえていますか?」  聞こえるよ――頷こうとしたが、そこでまた意識を失った。  水面下から、現実世界のぼやけた光を見上げていた。頭がぼうっとし、身体はわずかに痺れている。ニコラは用心深く光に意識を近づけ、ゆっくりと瞼を開いた。今回は幻聴や幻覚はなさそうだ。薄暗い部屋が見えた。意識して深く呼吸すると木の香りがした。息を吸って胸が膨らむと、背中が柔らかなシーツに沈む。ベッドに仰向けになっているようだ。頭上から柔らかく注がれているライトの光がシーツと、毛布、白いバスローブに袖を通してだらりとしている自分の左腕を照らしている。腕の肘関節の辺りには点滴のチューブが刺さっていて、上から透明なテープが貼られていた。その先には生気がなく、他人のものか、模型のようにも見える手があり――その手を誰かが両手で握っていた。 「よかった。気がつきましたか」  ライトの光の外から、スピノーネの声が聞こえた。ニコラの手を握っていた両手が離れ、その内の片手がサイドテーブルに移動し、スタンドライトの隣に置かれたスポーツドリンクのボトルを掴んで戻って来る。ボトルのキャップはすでに外され、飲み口にはプラスチックの細いストローがささっている。 「飲んでください」  乾いた唇にストローが押しつけられる。ニコラは言われるがまま口を小さく開けて端を咥えたが、吸い込むことはおろか、唇をすぼめることもできない。力が全く入らないのだ。結局、諦めて口を離す。するとボトルが引っ込められた。その行方をぼうっとして見ていると、闇の中からちゃぷ、と液体が揺れる音が聞こえた。光の下へスピノーネが現れる。彼は身を屈めると、躊躇うことなくニコラに口づけてきた。 「んんん……」  驚いたが、抵抗する気は起こらなかった。スピノーネに指先で顎下を支えられながら、与えられたものを少しずつ飲み込む。味はわからなかったが、咽せることなく飲み下した。 「はぁ……」  やがて唇が離れる。スピノーネがベッドに腰掛けてきた。 「ここは隠れ家です。到着してもう二日経ちますが、追っ手は現れていません。安心してください」  彼はそう言って額に触れてきた。指先で、ニコラの顔にかかっていた髪を払ってくれた。 「身体がまだ動かしづらいかと思いますが、いずれ問題なく動けるようになります。点滴で薬の排出を促していますし、今朝の尿検査で薬の反応はありませんでしたから。少しずつ正常な状態に戻ってきています」  勝手に俺の尿を採ったのかと聞くことは思いつかなかった。ただスピノーネの声に聞き入っていた。少しハスキーな声――疲れ果てているが、興奮している声音。 「離脱症状も治まったようですが、まだ体温が少し高いようですね」  額に触れていた彼の指先がすっと離れていった。ニコラはそれを追いかけたくなって身じろぎしたが、おそらく、したつもりで終わっただろう。スピノーネは一人喋り続ける。 「あなたに薬を打った男は、現在この家の地下室で拘束しています。改めて彼から薬の成分を詳しく聞き出して、必要であれば新たな対処をしなければ――」 (あいつを……つかまえたのか……)  やっとの思いで口を開いた時、ニコラは自分の声がすっかり枯れていることを知った。口をぱくぱくと動かすことしかできない。もどかしさに顔をしかめると、スピノーネが唇の動きを読んだらしく、すらすらと言葉を返してきた。 「えぇ。色々と聞きたいことがあるので。素直に会話に応じてくれればいいんですが」 (いま、からか?) 「はい。すぐ戻ります。もう少し眠っていてください」  スピノーネがベッドから立ち上がった時、ニコラは咄嗟に腕を伸ばして彼の手を掴んだ。 「どうしました?」  ニコラは歯を食いしばる。手がぶるぶると震えて力が入らない。すぐにでも振り解かれてしまいそうだ。それでも必死に指先に力を込め、ぜいぜいと息を切らしながら身体を起こす。髪が顔の前へ垂れてきたが、その隙間からスピノーネを見上げる。彼は目を見開いて固まっていたが、やがてまたベッドへ腰を下ろしてきた。ニコラは倒れるように彼の肩に縋りつく。 「ニコラ――」 「聞いてくれ」  ようやく絞り出した声は、砂利を飲み込んだようにざらついていた。 「……母を殺されたあの日から、もうこんなことが起こらないようにと願い続けてきた……思いつくことは全部やった。家族と縁を切って、周囲の人々に嘘をついて、誤魔化して、どうにか孤独にも慣れて、何もかも遠ざけて生きた。自分も周りも傷つかないように。なのに、全部無駄だった。普通の暮らしをしたかっただけだ。誰も死なない、誰も犠牲にならない暮らしを」 「あなたは、犠牲を払ってでも守る価値がある人間なんです」 「それは俺が、ドメニコの代わりだからだろ」 「違う、つまり、私は――」 「この数日でよくわかったんだ。俺という存在が、周りにどんな影響を与えているのか――俺がいなければ、何も起こらなかった」  俺がいなければ。俺さえいなければ。スピノーネの服を掴んでいた手から、自然と力が抜けていった。離れなければ。自分の身体が有毒な物質に汚染されていて、これ以上縋っていると、彼も汚染させてしまうような気がした。 「……もう疲れたんだよ。こんなことする必要ない」  ニコラはスピノーネから身体を離すと、腕に刺さっている点滴チューブを掴んで勢いよく引き抜いた。テープがびりっと音を立てて剥がれ、針の先から散った血がシーツに染みをつくる。 「ニコラ!」  スピノーネが素早く腕を掴んできた。痛いくらいの力だ。大きな目が覗き込んでくる。 「どうしてですか? あなたは生きている。体調はよくなるし、怪我もいつか治ります。生きていられる。なのにどうして――」 「身体が無事なら、それでいいのか」  ニコラは目を逸らし、ベッドに身を沈めた。スピノーネがぐっと言葉を詰まらせたのがわかった。腕を掴んでいる彼の手から力が抜けていき――やがてまたぎゅっと力を取り戻す。その力強さに驚いて思わず視線を戻すと、ブラウンとグリーンの瞳がこちらを見下ろしていた。 「私にはわからない。どうすればいい?」  初めて聞く、泣きそうな声だった。  今度はニコラが言葉を詰まらせる。咄嗟にかける言葉を探してあてもなく考えを巡らせていると、ふと旧市街の広場にいた時を思い出す。銃撃が始まる少し前――彼と食事し、広場を歩き、今まで誰にも話せなかったことを話して、強張った手を温められた時に感じたもの――それは前の日常にはなかったものだ。ずっと欲しかったものの形をしている気がした。それらを与えてくれた男が今、戸惑いのあまりに目の前で泣き出しそうになっている。  俺は何てことを。 「……来い」  ニコラは片腕を伸ばしてスピノーネの肩にかけると、力なく引き寄せてキスをした。乾いた唇の表面を擦るだけのキス。彼は拒まなかった。ニコラは一度唇を離し、鼻先が触れ合う距離で見つめ合った。彼の驚きで見開かれた目の中で、濡れた瞳がきらきらしている。綺麗な目だと見惚れていると、その輝きはゆっくりと陰に隠れていく――何かを理解したかのように。 また唇を重ねた。もう少し深く。舌で探り合い、互いの様子を窺うようなキス。しかしニコラは早々に疲れてしまい、顔を逸らした。その時、知らぬうちに溜まっていた涙が眦から零れて、つうと首筋にまで伝っていく。拭えずにいると、スピノーネの唇がそれを追ってきた。 「は……っ」  喉に彼の吐息を感じた時、バスローブの下で胸が震えた。その震えに気づかれたのか、荒れた手が忍び込んでくる。大きな手で揉まれ、ざらりと乳首を撫でられて、先端を押し込められていると、熱っぽい痺れが波紋のように全身へ広がっていった。ニコラがはぁと息を吐くと、スピノーネは毛布を取り払って隣に横たわった。彼の肩にかけていた片腕が、首の下に敷かれて動かせなくなる。  スピノーネの手はニコラの胸から下――あばら、鳩尾、臍の辺りを優しく撫でてきた。触れられた場所はぞくりと粟立ち、後には熱が残る。今度は臍下辺りをマッサージするように撫でられ、時々ぐうっと強く押される。手の熱を擦り込まれるような心地よさにぼんやりしていると、やがて彼の手が下肢へ滑り降りていく。はっと視線を向けると、スピノーネはニコラの下生えを撫でてから、バスローブの裾を捲った。項垂れているものが、寒さに反応してぴくんと跳ねる。ニコラは耳と頬が炙られたように熱くなったが、目を逸らすことができなかった。 「触りますよ」 「ん……」  まだ勃っていないとはいえ、彼の大きな手の前では、いつもより縮こまって見える――実際、縮こまっているのだろう。正直なところ、ニコラは痛みの到来を想像して身を固くしていた。彼の手の感触はよく知っている。だが、いざ感じたのは、控えめな圧迫感と人肌の温かさだった。様子を窺うように何度か握られた後、ゆっくりと上下に擦られる。ニコラは震えながら息を吐いた。しかし、息をつけたのはその一瞬だけで、ペニスへ与えられる紳士的な動きとは裏腹に、小さかったはずの熱が、後ろめたくなるほどの欲望を纏い始める。それは臍下までじわじわと這い上がって来た。きっと血流がよくなったせいだと考える――その考えを咎めるように、手の動きが次第に速くなる。思考が濁っていく中、ニコラはふと違和感を覚えて呻いた。 「どうしました?」スピノーネが手を止める。 「はぁ、いや……」  渇き、焦れる身体。力が入らず、あと一歩というところで上手く快感を受け入れることができない。解放を求める気持ちが毒のように巡り、発散する場所を失った熱が身体の中で蠢いた。スピノーネの手の中でペニスは徐々に萎えていく。すると彼の手が離れていった。見捨てられたように感じて一瞬不安になったが、スピノーネは身体を少し下へずらし、今度は陰嚢をゆっくり揉みしだいてきた。 「あ、ぁ、それ……」新たな刺激にニコラは片手でシーツを掻く。 「上手く勃たなくて当然です。でも方法はあります」  陰嚢の裏を撫でる指はやがてさらにその下へ、会陰部の皮膚と肉越しに身体の奥を刺激してきた。ニコラは鋭く息を吸い、枕に頭を擦りつける。体内の筋肉が刺激に震えながら呼応していた。彼の指は後ろの穴にまで迫ってきたが、すぐには侵入せず、上を撫でるように触ったり、離れたりを繰り返していた。何度もすかしを喰らい、その度にひくひくと引き攣る穴のせいでニコラは期待を隠しきれない。 「普段、一人ではされますか? ここを触って」スピノーネが尋ねた。  ニコラは黙っていた。最後に自分の慰めにふけったのは一体いつだっただろうか。考えることに疲れて「あまり」とだけ答えた。元彼とのまぐあいを思い出しかけたが――あまりいい思い出ではなかった気がする――肌にスピノーネの吐息と熱を感じて我に返る。 「結構」  太く長い指が一本、体内へと押し入ってきた。ニコラははっと息を吸って、落ち着いて吐くよう努める。体内はその形を恐る恐る確かめていた。指は浅い場所で動きを止め、やがて周りの筋肉をほぐすように動き始めた。少しずつ本数が増えていき、着々と身体の深部を曝かれていく。温かい体内に外界の空気の侵入を感じ、堪らずニコラは息を荒げて呻いた。するとスピノーネの指が肉壁の一部をぐっと押す。わずかな刺激だったが、それまで解されて柔らかくなっていた内壁はたちまちぎゅっと緊張し、足腰が跳ね上がった。 「ああぁ……」  彼の指は慰めるように奥を優しく叩き続ける。絶え間なく与えられる快楽に、ニコラの身体は緊張と弛緩を繰り返し、両足は震えてながらはしたなく開いていく。それに気づいて閉じようとすると、突然スピノーネが中で指を大きく開いた。 「んっ、あぁあ!」 「足、閉じないで」  温かく濡れて秘めていた場所がぐぱっと下品な音と共に晒され、反射的に元に戻ろうとする肉壁が情けなく彼の指を食む。思わず泣き出したくなって、ニコラは鼻をすんと鳴らした。 「はぁ、だめ、だ……」 「何が駄目なんです?」 「指、もう、やめろ……」  スピノーネの首に敷かれていた腕を曲げて、彼の後頭部の髪をぎゅっと掴んだ。すると体内の指は閉じたが、また中を擦られる。身体は快感の逃し方を忘れ、押し出されるような喘ぎ声が漏れた。頭の中が蕩けていく。もう声を押し殺す理由さえ思いつけない。 「このままいってください」低く囁かれる。「ニコラ、いって」  命令と同時に、指が素早く引き抜かれた。身体の激しい痙攣に呼吸が乱される。ニコラは一瞬で周りの音が消えなくなった。自分の心臓の鼓動すら聞こえない。全身が強張って呼吸が止まり、口を大きく開けたまま震えることしかできない。快感を楽しむというより、襲われているような感覚だった。やっと音が聞こえるようになると、ぜえぜえと胸を喘がせて息をした。頭をもたげると、項垂れたまま射精していた自分のペニスが見えた。 「……指だけ、なのに」 「えぇ。疲れたでしょう? もう終わりにしますか」  ニコラは震えながらも頷こうとした。もう終わった。もう終わりたい。しかし身体の奥がまた熱くなり始め、驚いたニコラはびくっとした。また頭の中が濁っていく。 「……なんか、これ、へんだ……まただ」  スピノーネは黙ってこちらを見下ろしていた。医者が患者の容態を探るように――その目が嫌だった。ニコラは自由な片手で彼の腕を掴む。さっきのをもう一度と求める気持ちが溢れ出し、恐怖という器のふちを乗り越えようとしていた。 「ニコラ……」 「……終わらせてくれ、何をしてもいい……」 「わかりました」  スピノーネの目がまたすっと暗くなった。そうだ、その目の方がいい。彼は身体を起こすと、蝶ネクタイを外して枕元へと放る。ニコラの足の間で膝立ちになり、シャツは着たままベルトを引き抜いて、スラックスのジッパーを下げる。下着の布地を押し上げるものの形が見えた。下着をくつろげると、凶悪なそれがずるりと姿を現わす。  ニコラはそれに見入ってしまう。しかしふと、なぜ彼が勃起しているのか疑問に思った。自分はまだしも、彼は何に興奮しているのか。心の隅では、この行為すら彼は仕事の一部だと考えるだろう思っていたが――まさか勃起までコントロールしているのかと行きつくところまで思考したところで、考えは霧散した。どうでもいい。それを望んでいる自分がいる。  視線を戻すと、スピノーネの目は相変わらず暗く、さらにぎらぎらしていた。  ニコラが頷く代わりに瞬きをすると、彼は身体を前へ倒してきた。膝裏に腕を差し込まれ、両足の膝が胸に触れるくらいまで押し倒される。圧迫感にニコラは呻いたが、白濁に塗れた内股と、ひくつく穴を曝け出された羞恥に黙り込んでしまう。その穴に、彼のものが押しつけられる。普段、あまり表情を崩すことのないこの男が今、ペニスに血を滾らせて燃えている。余裕を失っているように見えた。ニコラの前で―― 「力、抜いてください」 「あぁ、わかった……」  彼の屹立が雁首を越えてずるりと侵入しきた瞬間、恐怖も羞恥も吹き飛んだ。 「くそ、あ、あっ、あぁ……っ」  ニコラは顔を仰け反らせた。スピノーネはすぐには動かなかった。彼が身を屈めてキスをしてくると、ニコラは震えながら顔を元の位置に戻し、唾液を飲もうと喉を鳴らす。要望通りに深い口づけが与えられたが、すぐに離れていってしまう。名残惜しさに呻くと、スピノーネが腰を動かし始めた。 「うぁ! あっ!」  思わずニコラはスピノーネの肩に縋った。彼を受け入れられるよう仕込まれた内側を激しく擦られ、指では届かなった敏感な奥を突かれる。スピノーネという男が確かに自分の中にいて、腰を振りながら熱を上げている――考えているうちに再び射精していた。 「あぁ――はっ、はっ、はぁ……」  スピノーネの熱を締めつけながら絶頂の快感に溺れる。きつく目を閉じ、声を漏らしながら胸を喘がせていると、突然大きな両手が腰を掴んできた。身体が離れ、驚いて目を開けると、スピノーネが苦しげな表情で見下ろしてくる。 「ニコラ、頼みます。いく時は、言っていただけませんか」 「なん、で……」 「あなたがいくと中が締まって……こちらまで我慢できなくなる。私が果ててしまったら、あなたを最後まで導けなくなるかもしれない。楽になるまで何度でも付き合います。だから、辛いでしょうが、ご協力いただけますか」 「何、言ってるんだ……」呆れと苛立ちが、胸が痛むほどの愛しさに変わる。ニコラは自分の中に屹立を深く突き入れて震えている馬鹿な男を見上げた。「お前もいけよ……いきたいなら…………俺の中で……」  瞬間、スピノーネの顔から表情が消えた。 「……ふぅー……」  彼は俯き、長い溜息をつく。ニコラがその吐息の熱さを肌に感じた時、それまで一定のリズムで続いていたピストンが、一突きごとの重たい一撃へ変わった。内臓に響くほどの衝撃と快感にニコラは声すら失い、また絶頂の予感を覚える。 「はぁ、ぐっ、うぁっ……あぁ――」  達した――だが精液すら出なかった。爆発に似た快感が腹の中で連続して起こり、全身ががくがくと痙攣した。もう止められない。気づけばまた絶頂への階段を駆け上っている。  耳元に、スピノーネの荒い呼吸がかかった。 「ほら……ニコラ……黙っていかないでください……ほら……」 「わ、わかった、から、はあ、あ、ぁ、だめだ、また……っ、いく、いっ、く、い――」 「あぁ、くそ――」  スピノーネが獣のように身体をぶるっと震わせた。ニコラは腹の中で彼のものがどくどくと脈打ち、熱いものが注がれていくのを感じていた。全てを吐き出したスピノーネはしばらく呆然としていたが、やがてどっと倒れ込んできた。ニコラは彼を抱き留める。  胸の内が、温かいものでたっぷりと満たされた。

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