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好きな人の、好きな花
講義で隣の席をキープできるようになってからというもの、俺は優くんのバイト先の花屋にもガンガン通い詰めるようになった。
「竹内くん、また来てくれたの? 本当にお花が好きになってくれたんだね、嬉しいな」
「はい! 家に花があると心洗われるというか……!」
不審者並みの頻度で通う俺を、優くんはいつだって眩しい笑顔で迎え入れてくれた。
正直に言えば、最初は会いたい気持ちだけで通っていた。
だけど、無骨で殺風景な男子大学生の一人暮らしの部屋も、たった一輪の花があるだけで雰囲気が全然違う。毎朝、花瓶の水を替えて、少しずつ開いていく花を見る。……花のある生活、良すぎるな。
生きてる植物って、こんなに力があるんだ。静かで、綺麗で、なんか優しい。俺はいつの間にか、花そのものにも惹かれていた。
店内に漂う青々とした葉と甘い花の香りに包まれながら、ふと気になっていたことを聞いてみた。
「……優くんの『一番好きな花』って何なんですか?」
カウンター越しに尋ねると、優くんは花ばさみを止めて「うーん……」と可愛らしく首を傾げた。
「僕の好きな花? どれも好きだから迷うなぁ……。エリンジウムも好きだけど……やっぱりかすみ草かな。見た目も可愛いし、花言葉も素敵なのがたくさんあるんだよ」
愛おしそうにかすみ草を見つめる優くんが、あまりにも綺麗だった。儚くて、柔らかくて……なんかかすみ草みたいだ。いや、逆か? かすみ草が優くんみたいなんだ。
俺は見惚れて、返事をするのをすっかり忘れていた。
「……竹内くん? どうしたの、固まっちゃって」
不思議そうに顔を覗き込んできた優くんに、俺はハッと我に返る。
「あ、いやっ! かすみ草……! すごく先輩にお似合いだなと思って! 小さくて可愛いところとか……!」
「ふふ、ありがとう。なんか嬉しいな」
照れくさそうに笑う天使の笑顔を胸に焼き付けた俺は、家に帰るなり、真っ先にスマホを取り出した。
『かすみ草 花言葉』
検索結果に並んだ言葉——
『感謝、無邪気、幸福、清らかな心』
全部、優くんそのものだった。
小さなことにも感謝の言葉をすぐ伝えてくれて、無邪気に俺の心を掴む。そして、その清らかな心に触れたとき、優くんの幸福を願わずにはいられない。
優くんにぴったりの花言葉だと思った。
そして、俺は自分の気持ちを言語化してもらえたように感じた。
俺は優くんのことが好きだ。
そんなことは、とっくに分かっていた。
でも、どこが好きなのかと聞かれたら、今までちゃんと答えられなかったと思う。
優しいところ。笑った顔。花を大切にするところ。俺の話を嬉しそうに聞いてくれるところ。
……そうやって考えているうちに、ひとつのことに気づいた。
俺は、優くんに幸せでいてほしい。
俺といる時だけじゃない。俺の知らないところでも、ずっと笑っていてほしい。
それくらい、この人のことを大事に思ってる。
優くんが一番好きなかすみ草を、いつか絶対に、最高のかたちでプレゼントしたい。
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