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第3話

「一緒に帰る?」 悠人の声に、湊が顔を上げる。 目が合った途端、また下を向いた。 「大輝も帰るよな?」 そこでようやく、悠人が俺を見た。 「おー。帰る帰る」 机の横から鞄を取る。 湊はもう、悠人の隣に立っていた。 好きなやつの前で黙るのは、昔からだ。 普段なら言い返すようなことも、そいつに言われると笑って済ませる。 あとになって、俺にだけ「あれ、どういう意味だったと思う?」と聞いてくる。 今日も、たぶんそうなる。 「今日の英語、だるくなかった?」 悠人が湊の方を向く。 湊の唇が少し開いて、閉じた。 二人とも黙ったまま、何歩か歩く。 「だよな。あの小テスト無理ゲー」 俺が言うと、悠人が笑った。 「最後のやつ、分かった?」 「分かるわけないだろ」 また笑う。 俺も笑う。 こうやって話すのは、難しくない。 明日の小テストでも、昨日見た動画でも。 もう一つ何か言えば、もう一度こっちを見てくれる。 「湊は? 最後まで書けた?」 悠人の顔が、俺の向こうを向いた。 湊がうなずく。 悠人は少し身をかがめて、その顔を見た。 俺は、鞄の持ち手を握り直した。 分かれ道で、悠人が足を止める。 「じゃあ俺こっちだから」 「またな」 手を上げる。 湊は小さく頭を下げた。 悠人の背中が離れていく。 湊は顔を上げたまま、そっちを見ていた。 「なあ、さっきの英語さ」 声をかけると、湊が振り向く。 「あ、あれ……」 さっき出てこなかった言葉が、今は出てくる。 俺が間違えたところを教えて、ちょっと笑った。 「それ、悠人にも言えばよかったじゃん」 湊の口元が止まる。 「……言おうとは、思った」 それきり、靴の先を見て歩き始めた。 俺はもう一度、分かれ道を見た。 悠人の姿はなかった。 湊には、好きだと言わなくても分かる。 俺のは、どうだろう。 さっき悠人が笑ったとき、もう少し話していたかった。 湊に話を振る前に、もう一つくらい。 そんなこと、分かるわけないか。 どうせ、 悠人は俺のことなんて好きじゃない。

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