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第4話妾の子

母は美しかった。 だから父は狂ったのだった。 父は世襲の官職を持つ大貴族で、荘園や店も多く持ち、豊かな財力もあった。 確かに何人か側室や妾も持ってはいたが、それでもそれに溺れることはなかった。 側室から生まれた子供は大事な政略結婚や一族を支える道具だと思っていたし、妾には子供は産ませなかった。 母に出会うまでは。 母は小さな商売をしていた商人の娘で。 母の一族は母が美しすぎたために皆殺しにされた。 母を奪い合い、殺し合いが始まり、一族はそれに巻き込まれしまったのだ。 母の美しさは母の一族には災いでしかなかった。 母にとっても。 母は16でまずは豪商の妾となった。 豪商は母に溺れた。 夜も昼も、全ての時間。 高価で珍奇な薬にまで頼って。 そして腹上死した。 すぐに母の奪い合いがおこり、母は次は都の名家の妾になった。 侯爵。 それが父だった。 母のことを正妻に知られるのを恐れたその侯爵は屋敷の外で母を飼った。 そして、母の虜になった。 豪商と違い、彼は恋を患った。 娘ほども歳が離れたまだ少女と言ってもよい若い娘に。 屋敷の外で飼ってる内は良かった。 まだ、恋には狂ってはいても、線は引いてた。 仕事にも家内にも辛うじて問題はなかった。 それは狂おしくても恋たったから。 正妻が少し眉を潜める程度だった。 でも、毎日少しづつ狂っていく。 少しづつ少しづつ。 屋敷に帰らなくなるのはまだ良い方だった。 どうしても帰らなければならない時にさえ、手放せなくなり屋敷にまで連れてきてしまった時にはもう壊れていた。 卑しい身分のない女をこんな時に屋敷に入れるとは 侯爵様、お考え直しください 正妻の正論すら通じない。 ダメだ 離さない 私のモノだ 返ってくる言葉が正気ではなく。 侯爵の母親の危篤に呼び戻されたというのに、部屋に籠って妾を抱いていた。 部屋からの淫らな声に、屋敷中が総毛立つた。 狂気だった。 そして、葬儀の間すら、妾を近くに置いて離さない。 狂った。 そう正妻は賢く理解した。 病ということにして、妾とともに屋敷に閉じ込めたのは正妻の正しい行動だった。 妾に子供が生まれた。 良くも無事に生まれたものだと皆が驚いた。 狂った侯爵が妾を抱かなかった日があるとも思わなかったからだ。 妊娠していようと気にもとめず、狂った侯爵は屋敷の閉じ込められた部屋で常に妾を求めていたのだ。 生まれた子供を正妻は手元に置いた。 一族の血を引く子供ではあるからだ。 産みの母である妾に育てさせるなど考えもしなかった。 母になれる女ではなかったからだ。 生まれた子供は男の子で、正妻は安堵したが、育つにつれて眉を顰めるようになる。 あまりにも妾に似すぎていたからだ。 外見以外は大人しい普通の子供ではあった。 その外見が問題だった。 子供を厳しく管理した。 子供に近付ける者も制限した。 正妻は賢く正しかったから。 でも正妻にも間違いはある。 夫を閉じ込めはしたが、それでも夫であり今でも名ばかりの家長であるため、屋敷内ではそれなりの自由を与えてしまったのだった。 美しい妾と場所さえ気にせず番う狂った家長を、屋敷の人間達が見てしまう事は正妻の手腕をしても、稀にあってしまった。 単に誰かと誰かが番っているだけなら、名家の【見なかった】事にして禁口令を引けばいい。 誰も恐ろしい正妻に逆らって名誉を汚すことはないのだから。 そこは問題ではなかった。 問題なのはあの妾と侯爵の、それを見てしまった者の方だった。 父が愛する妾と所構わず番う姿を見てしまったのは、正妻の息子である世子だったのだ。 若き有能な跡継ぎ。 尊敬してきた父親の狂気を知り、その元凶である妾を目の当たりにして、世子は激昂した。 刀を持って父親と妾を切ろうとしたのを、正妻自らが止めなければならなかった。 世子の怒りの凄まじさに、家中が恐れ慄いた。 正妻だけは眉を顰めるだけだった。 正妻は離れを塀で囲い、今度は完全な自由を奪い狂った侯爵と妾を閉じ込めた。 「あの女を殺す!!殺す!!」 世子の憎しみはあまりにも激しかった。 二人を閉じ込めてもなお。 とうとう狂った侯爵も死ぬ日が来た。 もちろん腹上死だった。 報告を受けて世子は吠えた。 刀を掴み、死んだ父親の元へ向かった。 誰も止められなかった。 そう、死んだ父親の胸に刀を突き立て、その死体の横で泣き叫ぶ妾を犯し始めても誰も止められなかった。 正妻が止めても駄目だった。 葬儀に世子は出てこなかった。 妾を手放せなかったからだ。 病気の世子の代わりに次男が式を執り行っている間も、世子はその隔離された屋敷で、妾を犯し続けていた。 殺してやる、と言いながら。 死ね、呪いのような女、と叫びながら。 食事も飲むこともせず、妾が意識を失っても、止まることなく、とうとう世子が力尽きるまで犯し続けた。 正妻は賢明だった。 妾を毒で殺した。 速やかに。 そして燃やした。 肉の一欠片でもあれば危険だとわかっていたから。 骨まで砕いて川に流した。 目覚めた世子はそれを聞き、まるで夢から醒めたようだった。 正気に戻った。 「あの女の魔力だよ」 皆はこっそり家の中だけで言い合った。 決して家の外には出さない。 正妻は見逃さないし、恐ろしい。 世子は元通りになったように見えた。 だが正妻は危惧していたし、それは正しかった。 正妻が手元に引き取り育てた妾の子供は6歳になっていた。 あまりにも美しく。 その母に似ていた。 男ではあっても。 世子はまだ気付いてはいないが。 賢い正妻はすぐに道をみつけた。 それしかなかった。 我が子と家を救うには。 正妻はその賢さで一つ一つそのための準備を行った。 世子がその子の面影に気づいたその時には、その子はもう引き渡されていた。 帝のための愛玩宦官のための素材として。 「お前の為にもそれがいい。兄に犯され、家を潰すより。国を傾けるかもしれないね、お前は。でも国が滅ぶくらい、我一族を滅ぶすよりはずっといい。兄に犯され、お前の一族を滅ぼしたいかい?母親のようになりたいかい?」 正妻は少年に言った。 もう10歳になっていた。 愛玩宦官として育成するにはギリギリの年齢だった。 幼い少年は正妻の言葉に首を振った。 母親のようになりたくなかった。 育ててくれたのは正妻で、彼女は少なくとも公平に妾の子供を扱ってくれた。 食べさせ着せ餓えさせなかった。 逆らう理由は無かった。 そして兄は怖かった。 つい最近、自分の存在に【気付いた】時の、あの目。 死んだ産みの母の名前を低く呟くのが聞こえた。 まだ兄には理性があった。 今家を出なければならない。 あの兄からは逃げなければならない。 正妻はそのチャンスをくれている。 「帝のモノには誰も手を出せない」 正妻は言った。 「だからお前はモノになるといい。でなければ母親と同じ運命だ。兄に犯され殺される」 正妻の目は冷たくでも憎しみは無かった。 「はい」 少年は頷き、そしてその日の内に【業者】に引き渡された。 そして少年は帝のための愛玩宦官となった。

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