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第17話 灯篭
狂った恋話ばかりしてる様子でも、帝と大将軍は粛清と国内統一に余念は無かった。
外夷への警戒も欠かすことはなく、帝の気質からは意外な程に外交努力も繊細に行われた。
内乱時、日和見を決めてきた有力貴族達はしっかり締め付けられ、反抗する気概はことごとく奪われ、反乱しようとしても、する前に将軍に鎮圧された。
ただ、侯爵家は厄介だった。
あれほど寵愛する愛玩宦官を犯してやったというのに、反抗してこない。
従ってるフリを続けてる。
「あの家は夫人が賢いですからね。あの女が愚かな夫と息子が潰しかけた家を支えてる」
大将軍が褒め称えるから、そうなのだろう、と帝は思う。
「目の前で犯すか、今度は」
冗談ではない口ぶりで帝は言う。
似ているが違う。
だが、アレはアレで良かったのだ。
侯爵の目の前で犯すのは、またそれはそれで興味深い。
愛玩宦官が侯爵より自分に反応するのを見せつけるのもいい。
殴って犯すのは一番つまらないことだと、教えてやってもいい。
「今度は反乱より先に愛玩宦官を殺すだけになりますよ。奪われるくらいなら殺すでしょ。あなたも私も」
大将軍の言葉に沈黙した。
良く理解できたからだ。
「侯爵を追い詰める方法はまた考えるとしよう。侯爵家の辺境での領地と、やつらが持ってる貿易路は持たせておくには惜しい」
帝は言ったが、中々、挑発にのらず、のらりくらりと躱して来る侯爵家は、本当に厄介だ。
侯爵夫人を1度見てみたいとは思った。
賢い女だ。
若ければ挑発を兼ねて、召し出し犯しただろうが、流石に年上すぎてその趣味はない。
が、見事な敵なら会ってみたい。
夫人は病弱を理由に屋敷に引きこもり、姿をみせないまま、帝や大将軍相手に碁石を打っているのだ。
侯爵家の持ってるのは財力だけではなく、強力な私兵もだ。
しかも辺境という場所にもソレはある。
侯爵が【侯】ではく【王】を名乗り兼ねない危険はずっとある。
力を削ぐか、潰すか。
どちらかしかなかった。
「もう一度くらい・・・あの愛玩宦官、召し出せないかな」
帝は自分の少年宦官によく似た、あの愛玩宦官を使った時のことを思い出してにやついた。
最後には縋り付き、中からも自分モノに吸い付いてきた、あの愛玩宦官はたまらなく良かった。
侯爵の愛玩宦官にまたしても帝は未練をみせたが、将軍に忠告される。
「自分と似てる愛玩宦官を犯したと知られるのはあまり良くないですよ。後宮てのはいくら隔離してても情報だけは入ってきてしまいますからね。知られてもいいんですか」
大将軍の言葉に帝は黙った。
せっかく名前を呼んでくれるようになったし、腰に脚まで絡ませて抱きついてくるようになった。
あまり追い詰め過ぎないで、終わったあとに、抱きながら話などもするようになったし、この前は腕の中で歌ってくれた。
透き通る声の子守り歌に寝てしまったのは帝で。
どんな女を抱いてても、先に寝たりなどしたことがなかった。
女を眠らせ、先に起きた。
常に警戒してきたのだ。
なのに、緩みきって寝てた。
人の胸の中で先に寝たのは帝の死んだ乳母以来のことで。
まだまだ幼い頃だ。
目覚めてそこで安堵したのも初めてで。
だからあっさり侯爵の愛玩宦官を諦めた。
嫌われたくはない。
絶対に。
「また侯爵家については考えるとして、本当に行くつもりですか?」
大将軍は聞いた。
リスクが高すぎるが、どうせ止められない。
「ああ。なんにも欲しがらないアイツが見たいと言ったから」
帝は笑った。
嬉しそうだった。
「警護は付けときますけど、油断はしないでくださいね」
大将軍は忠告した。
「分かってるさ」
帝はさっさと服を脱ぎ出した。
「見るなよ」
大将軍に言う。
ここで着替えるしかなかったからだ。
極秘なのだ。
これから数時間、帝と大将軍はこの書斎で話し合いをしていることになっている。
人払いまでして。
黄色の豪奢な帝の為の服を脱ぎ捨てて、下級貴族の若君のような服装に着替える。
祭りのための晴れ着だ。
「私は確かに男が好きですが、愛する男以外は今では無意味です」
大将軍は無表情に言った。
「だけどしっかり見てたじゃないか」
帝は指摘する。
「好みの外見ではありますから。愛の点では無意味ですが興味はあります」
しれっと大将軍は言う。
帝は呆れた。
もちろん大将軍の隣りにはやはり大将軍の愛玩宦官が控えている。
こちらの表情は無だ。
女官がそっと扉を叩いた。
「お連れしました」
そう扉の向こうで小さく言う。
「入れ」
帝は言った。
可憐な少女の衣装に身を包んだ、少年宦官を女官は連れてきた。
女官は1人だけだ。
あくまでもこれは極秘行動だから。
帝が少年宦官を見て顔を緩める。
淡い祭りの晴れ着を着た少年宦官は、少女にしか見えない。
「男の格好ではかえって目立ちすぎます。令嬢に扮装した方が自然かと。お化粧もしておきました」
女官は淡々と報告したが、にやけ切った帝の様子に内心驚いてる。
「これはこれで・・・」
可愛い、可愛いと、帝は1人で唸っていた。
「あくまでも目立たずに、と言ってもお二人とも目立ちますからね。だから短時間で帰って来てください」
大将軍は告げた。
「ああ、灯篭流しを見るだけだ」
帝は言った。
そして、少女姿の少年宦官の手をとった。
数日前、抱いたその後にまどろみながら、少年宦官が祭りの灯篭について呟いたのだ。
幼い頃、見たそれが忘れられないと。
小さな庭から見上げる空で満足していて、庭に来る小鳥にあげる餌が欲しいとねだるそんな少年宦官が、珍しく見たいと言った。
過去について少しだけ話した。
母上が、飴のお金をくれて、川に流す灯篭も買ってくれたと。
その顔が見た事のない顔だったから。
嬉しそうな顔だったから。
飴を買って、灯篭を買って、川を流れる灯篭の光の群れを見せてやりたいと、思った。
思ったから。
「あの、あの、この服は」
少年宦官だけが分かってない。
何故女の服を着せられているのかも分かってない。
寝所ではない場所に通されたのも初めてで。
大将軍や、大将軍の愛玩宦官を見て固まっていた。
少年宦官の可憐さに大将軍も感心し、愛玩宦官は目を見張った。
「こいつを見るな」
帝の命令に素早く愛玩宦官は目を背けたが、大将軍は笑ってた。
「くれぐれもお気をつけて。いってらっしゃいませ」
大将軍は少年宦官に恭しく礼をした。
この国で帝に次ぐ権力者が。
帝の持ち物ではあっても、奴婢以下の身分の愛玩宦官に。
自分の忠誠を誓う帝の唯一の存在だと分かっていたから。
「行ってくる」
帝の機嫌はいつになく良かった。
その夜。
祭りで賑わうへと侯爵もまた愛玩宦官を伴い向かっていたことは帝も大将軍も知る由もなかった。
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