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第3話
「う、わ……嫌なタイミングに来てしまった。混みすぎじゃないか」
「あれ。ルシアンさん。昼時に珍しいっすね」
「リオットくん」
時計をちらりと見ると、ちょうど騎士団員たちが昼食休憩に来る時間だった。時間を全く見ていなかった。腹が減ったので、食堂に来たのだ。
「君は何してるの? 食堂で食事もせずに」
「ヴァルドさんとアシェくんが来るのを待ってるっす。あ、噂をすれば!」
リオットくんが手を振る方向にヴァルドくんにアシェくん。アシェくんは小さく手を振り返している。まるで忠犬のようだな。リオットくんは。
「ルシアンさんも一緒にどうです? 今なら四席空いてるっす」
腹も減ったし、見渡す限りここしか席は空いてなさそうだ。断る理由もないか。椅子に腰を掛ける。
「ヴァルドさん! 席取っておいたっす」
「頼んではいないが、助かった。ルシアンも一緒とは珍しいな」
「偶然ね。アシェくん、大分顔色が良くなったね」
「朝ごはんいっぱい、食べたんだ」
アシェくんは、にこりと笑った。今は大分頬に赤みもついたようだ。
「ヴァルドさんが懸命に、アシェくんの面倒を見ていますからね」
「別に普通だろう」
戦闘中のヴァルドくんを知っていると、今の穏やかな様子には驚かされる。魔物相手には一切の容赦なく、次々と斬り捨てるその姿は、冷酷そのものだった。アシェくんの存在が、彼を変えているのだろうか。
「メニューが増えてる」
「食べられる物が増えてきたな」
アシェくんのメニューは健康状態を見て、彼専用に作ってくれている。食べ切れる量はまだ少ないが、食べられる種類は大分増えたようだ。
「オムライスがある。リオットさんが教えてくれたものだ! ふわふわたまごなんだよね?」
「そうっすよ! ここのオムライスも美味しいっすよ!」
「いつの間にそんな話をしたんだ」
「この間ですよ。ねっ」
「うん」
アシェくんとリオットくんはいつのまにか、かなり仲良くなった様だ。リオットくんは誰にでも良い意味でも悪い意味でも分け隔てなく接するからな。
「で、何にするの? 全員そのオムライスでいい?」
こちらはともかく腹が減っている。さっさと注文してしまいたい。
「ちょっと待って下さい!」
「アシェ。こちらも食べてみたいと言っていなかったか?少し分けてやろう」
「わあ。いいの?」
アシェくん相手には相変わらず甘いようだ。うちの騎士団長は。
「注文するよ」
「えーっと! 自分はこれでお願いするっす!」
騒がしいなあ。腹が減ったと言うのに。でもまあ、新しい楽しみもできた。アシェくんの変化を間近で見られるのも、退屈しなさそうだな。
「これも似合いそうっすね!」
「これなんかもいいんじゃない?」
「え、っと……」
お昼ご飯を食べた後、ぼくはヴァルドさんに中庭に連れられた。中庭では月に一回騎士団庁舎に行商人が来るみたい。子供用の服も持ってくるように頼んでおいた、とヴァルドさんは言っていた。中庭には、たくさんの服が並べられていて、騎士団員の人たちはみんな服を買ったり試着したりしている。そんな中ぼくは今、ヴァルドさんとリオットさん、ルシアン先生にたくさん服を渡されていた。
「お前ら、自分のはどうした」
「自分は先月買ったので今回はいいかなーと!」
「好みのものがなかったんだよね」
「全く。アシェ、着替えられたか?」
「う、うん」
上から下まで全部、着たことがない服だ。前まではレオン義兄さんに要らないからって言って渡された、破れたり穴の空いてしまった服を着ていた。ここに来てからは騎士団員の人と同じ、柔らかい生地で出来た部屋着を着ている。
今着せてもらった服は、ピシッとしたシャツにかっこいい半ズボン。ベルトに靴下。靴まで用意されている。シャツはちょっと首がきゅうっとなるけど、背筋がしゃんとする気がした。
「似合うな」
「かっこいいすよ! アシェくん」
でもなんだかまるで、貴族の人みたいだ。ちょっとだけ落ち着かない。
「ネクタイはどちらの色にするか」
ネクタイを二本渡される。黒と白。どちらもかっこいい。
「アシェくんの髪の色に近い白っすかね?」
「シャツや彼の髪が白に近いなら黒がいいんじゃないか?」
リオットさんとルシアンさんもどちらがいいのか話している。ぼくは一つを指さす。
ヴァルドさんの髪と同じ、黒色。
「そうだな。こちらにするか」
ヴァルドさんの手でネクタイは首に巻かれて、パチッと留められた。
「いいっすね!」
「これにしよう。一式もらえるか?」
ヴァルドさんが行商人と話している。もしかして購入するのかな。
「ヴァルドさん。こんなかっこいい服。着ていくところがないよ」
「ある。まず、明日だ」
「明日は久々の丸一日お休みですもんね。楽しんで来てくださいっす!」
「騎士団長もハードな仕事だよね」
ヴァルドさんに腕を引かれる。この服はいつのまにか、ぼくの物になっていたようだった。
「あ、ヴァルドさん、あの。あ、ありがとう……」
「いいんだ」
ヴァルドさんたちが選んで着せてくれた服。どれも大切にしようって思った。
こんな素敵な物、初めてなんだ。
「アシェくん……良かったね。あ、これ下さい」
「エレナちゃん。いつもありがとうな!」
「どれも可愛いので! いつも財布の紐が緩くなっちゃいます」
私は月に一回、行商人が来るのを毎度楽しみにしている。物色していたら、ヴァルドさん達がアシェくんに色んな服を着せているのを目撃した。
本人は遠慮がちだけど、周りが色々持ってきており、遠くから見ていたけど微笑ましい。ルシアンさんまでそれに参加してるのは何だか珍しいけれど。
騎士団庁舎まで売りに来てくれる行商人は、レパートリーも毎回違うし、お買い得だし、好みの物も多いのだ。密かな楽しみでもある。明日は確かヴァルドさんがようやく丸一日お休み。アシェくんの勉強もお休みにして予定を組んだ。二人でどこかに行くのかしら。最近魔物たちも落ち着いてきている。楽しんで来れるといいな。
「これはさすがに若いかのう。エレナくん」
「似合いますよ! ノーマン館長!」
「これいいっすね! やっぱり買っちゃおうかな。ルシアンさん。これどうっすかね?」
「僕はもう帰るね」
アシェくんのおかげでちょっとだけみんな変わってきている気がする。ここがアシェくんにとっての大切な居場所になってくれたら嬉しいな。なんて。そんなことを思うのだった。
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