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第8話
コンコンとノックの音が執務室に響き渡る。時間通りだ。アシェに扉を開けるように促す。アシェが執務室に入ってくる様子は何度も見ていた。初めて会った時は怯えた様子だった。痩せこけて、服や鞄がボロボロで髪もボサボサ。恐ろしいものを見るようにオレのことを見ていた。それもそうだろう。残酷なことを言われてここに来たんだからな。その日のことはまだ鮮明に覚えている。
「ヴァルドさん!」
今は笑顔を浮かべて目を輝かせている。たくさん食べさせたので、少しは成長したようだな。さらさらになった髪を撫でると、不思議そうにこちらを見上げていた。二人掛けソファーに腰掛け、アシェを手招きする。アシェは定位置のようにオレの隣にちょこんと座った。
「今度、毎年恒例の収穫祭がある。それの説明をしようと思ってな」
アシェを呼んだのはそのためだ。隣のカルナ村主催のものだが、きっといい経験になるだろう。机に資料を広げると、アシェはふふっと笑っていた。
「どうした?」
「ううん。とっても楽しそうだなあって」
「――そうだな。大変だが、楽しいことがたくさんある。これからもずっと」
「うん。お手伝い、頑張ります!」
「今年の収穫祭はな――」
資料を読み進めて説明を始める。アシェとどこを回るか。今度の休みはどこに行こうか。そんなことまで考えてしまう。アシェは楽しそうにオレを見上げてにこりと笑っていた。
アシェの左手につけられたシルバーのブレスレットが鈍い光を放っている。ブレスレットに埋め込まれた真っ赤な魔石には、オレの魔力が込められている。――アシェは、オレのものだという証だ。その魔石はまるで炎のように輝き、淡く照らし続けていた。
四章 アシェは愛される、これからも。
左手を天井に向かって掲げる。ライトに反射してきらりと光る、シルバーのブレスレットだ。真っ赤な魔石が埋め込まれている。赤色はヴァルドさんの魔力の色なんだって。赤は炎みたいに燃えてて、昔は怖いと思っていた色だったけど、今ではカッコよくて、大好きな色になった。
「アシェ。腹が減った。食堂に行こう」
「はあい!」
仕事を終えたヴァルドさんだ。ぱたぱたとヴァルドさんと一緒に食堂へ向かう。右手を差し出されて、左手を重ねた。手を繋いでくれるんだ。ぎゅっとヴァルドさんの手を握る。たくさん魔物を狩って、剣を握ってみんなを護ってきた優しい騎士様の手だ。ぼくも魔法が使えるようになったら、ヴァルドさんにぼくの色の魔石を渡したいな。何色になるのかな。
その時はだいすきの気持ちとありがとうの気持ちを込めるんだ。
だからそれまで、待っていてね。
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