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第2話
2話 はじめまして
揺れる馬車に乗り継ぎ、どのくらい経っただろうか。結ぶのも億劫な金色の長い髪が静かに揺れる。
ぼんやりと景色を眺めながらも、適当な話題を口にする。普段寡黙なヴァルドとは、第一騎士団にいた頃よりも今の方が多く話しているくらいだ。
同じ隊にいたとはいえ、お互いにかなり忙しかった。しかし、こんなに何も考えずに外を眺めている時間なんて、久しぶりだ。
「……第三騎士団、かなり田舎の方だと聞くけど。何があるといいかな?」
「風呂、飯。それさえあればいい」
「最低限だね。あの第三騎士団の拠点の資料を見たけど、本当に現在活動できているのか疑問に思うよ」
「1から作り直しかもしれないな」
「そうだね」
「また築き上げていけばいい。オレたちならそれができる」
そう伝えるヴァルドの横顔を、直視することはできなかった。
ずくり、とまた胸元で嫌な音がする。
彼を巻き込み、第一騎士団で築き上げる栄誉を取り上げてしまったこと。
ヴァルドはルシアンを一度も責めることなく、命令に従ったのだ。
これはただの理不尽なことだ、とルシアンに伝えた。しかしその言葉は罪悪感で押し潰されている彼の心には届かなかった。
自分1人の罪だったらどんなに楽だったかと。
ただそれだけを考えていたのだった。
__
「……資料で見たより酷くないね」
「そうだな」
馬車で数日かけてようやく到着した第三騎士団の拠点は、噂で聞いていたよりは悪くないもので、胸を撫で下ろした。もっと廃墟のようなものを想像していたが、そんなことはないらしい。
しかし資料では、ど田舎に位置する拠点、治安も悪く、手入れもされていない、など不穏な要素が書き連ねてある。
さらに載せてある写真では壁が一部崩壊しているが、実物はその様子はない。
この資料を作成した者は第三騎士団に興味がないのか、情報が更新されていないようだ。
現在この拠点を再生させた――誰か優秀な指導者がいるのだろうか。
「行くか。連絡はいっているはずだ」
お互い荷物はそんなに多くはない。片手で鞄を持つ程度だ。大切なものがなかったわけではないが、全て捨てることにした。
どうせ全てなくなってしまうならば、持っていたって意味がない。
ヴァルドは、元々所持品は多くないと言っていた。だが、本当のところは分からない。同じ隊になって少し話した程度。しかし他の団員と比べたら話す方ではあったかもしれない。
彼がもし、大切なものを置いていったのなら――ここで新しく大切なものが見つかるといい。そう思った。
第三騎士団に足を踏み入れると、遠くの方でなにやらバタバタと忙しなく歩き回る音が聞こえた。
「……ヴァルドさん!?あれ、今日到着だったんですね!?
報告まだ届いてないっすよ……!」
やってきたのは赤髪の青年だ。何やら荷物を運んでいたようだが、急いで荷を下ろしてこちらへとやってくる。
ルシアンは後ろから身を乗り出して、前を歩くヴァルドに問いかける。
「知り合い?」
「あぁ。以前騎士団訓練所で共に励んでいた仲間だ。オレと1、2位を争うくらいの成績だった。どうして第三にいるのか、いまだに不思議なくらいだ」
「まあ第一騎士団に入るには家柄もありますからね。お久しぶりです!ヴァルドさん、それからルシアンさん!」
こちらに視線が映る。どうやらこちらのことを知っていたらしい。資料がすでに送られてきていたのだろう。
「久しぶりだな。しかし敬語はいらない。ここではトップを務めていたんだろう」
「第一の方のほうが立場は上ですから。でもそう言ってくれるなら遠慮なく。また会えて嬉しいっす!」
赤髪の青年はにこりと笑い、口元からは八重歯を覗かせていた。再びこちらに視線を向けられる。自己紹介を求められているようだ。
「初めまして。ルシアンだ。ここにはまだ治癒師がいないらしいね。僕が何か力になれるといいけれど。よろしくね」
誰かと親交を深めたいわけでもないが、波風を立てたいわけでもない。そんな気持ちで右手を差し出すと、両手でガシリと強く手を握られる。
「初めましてじゃないですよ。ルシアンさん!覚えてないですか!?」
「ええと……」
以前会ったことがあるらしい。ルシアンは騎士団訓練所に通っていたわけではないので、それ以前のことだろうか。記憶を遡ってみる。……もしかして。
「リオットっすよ!髪、いい金色っすね!」
「……あ」
治癒師として派遣されたばかりの頃。治癒魔法を施した赤髪の男。確か今のように、金色の髪が綺麗だのなんだの言われていた。あの時の青年か。
「あぁ。あの時の。今思い出したよ」
「えぇ!結構話しかけたんですけどねぇ!」
その勢いで力強く引っ張られそうになる腕を、どうにか引き抜く。
当時も今も身なりは整えてきたつもりだが、髪なんて伸ばしっぱなしなだけだ。わざわざお世辞なんて考えなくてもいいのに変わった奴だ。
そんなことを考えていた気がする。
「相変わらず騒がしい男だね」
「覚えてもらうためですから。また会えたらとずっと思っていたんですよ」
リオットにとっては夢のような再会だったが、ルシアンの心は未だ薄ぼんやりと霧がかかっているのだった。
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