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第4話
4話 第一騎士団
第三騎士団に来てから、また忙しい日々が続いていた。
劣化した建物の修復作業から始まり、騎士団員たちは街の見回り、そして魔石の結界の補給作業の依頼。ようやくこれらの業務が円滑に回せる準備が整ってきた、というところだ。
そしてルシアンは今、書類整理に明け暮れている。数ヶ月放置された依頼の書類に、団員たちの名簿や各々の実績と記録がバラバラに置かれている。ここに放置された依頼がきちんとこなされたのか、それすらもわからない。
これらの書類は転写し整列をかけて1冊にしてしまった方が早いかもしれない。
原本の方の整理は後で考えよう。
転写し終わった原本の書類はとりあえず、手近にあった籠に乱雑に入れておくことにする。
同じ内容が記された1冊の本が手元に出来上がる。パラパラと開いてみるが、内容も順番も間違っていない、なかなかの出来だ。
ヴァルドが見る分には、これで問題ないはずだ。と完成した本を眺める。
しかしいくつか日付が確認できるが、これらは数ヶ月放置されていたようだ。おそらく手が回らなかったのだろう。いや、回るはずもない。
建物の修復作業の指示や、組織全体の立て直しは、彼――リオットを中心にほぼ1人で行われていたのだ。
指示を受け、第三騎士団として尽力した者がいた場所は少しずつ作業が進んでいるようだが、どうやら作業が割り当てられているにも関わらず、何もされていない場所もある。
第三騎士団に、異なる動きをする者がいるようだ。
「……」
小さくため息をつく。こんな状況の中、1人で全員を把握するなんて不可能だろう。
よく今までずっとあの明るさでいられたものだ。……これは褒めているんだ。
一段落つき、腕を伸ばして背伸びし、辺りを見回す。何度見てもやはり放置された書類の山
。でもこの部屋の奥には個室もある。個室にはあまり使用されていなさそうなベッドやクローゼット、簡易キッチンなど一式揃っているようだった。
棚もたくさんあるし、机や椅子も悪くはない。
「ここに住もうかなぁ……」
疲れた頭でルシアンはそんなことを呟くのであった。
____
バチンっと結界の破壊された音が聞こえた。どのくらいこの戦いが続いているのか、考えるのも億劫だ。全員疲労困憊で、心身ともに擦り切れ、疲弊しきっている。
一度状況を立て直すべきだと進言したが、聞き入れられなかった。手柄なくして帰還するなんてことは、第一騎士団にはできないのだ。
遠くで悲鳴が聞こえて我に返り、結界を張り直す。この趣味の悪い派手な杖がなければ、立っているのもやっとだっただろう。初めて役に立ったかもしれない。
ただただ、早く終われ、早く終われ、と。
願うことしかできなかった。
『お前のせいだ!』
『……』
『お前のせいで、うちの息子は怪我をした!』
『……その怪我は治癒できる。今は重症者から順に治癒を行っている。もう全員、魔力が足りないんだ』
『うちの息子の傷が軽いというのか!?
こんなに血が出て……』
『あぁ。傷は軽い。でも、必ず治すから、少し待っていて欲しい』
『……口答えをするなんて……!』
身体を突き飛ばされて、思わず尻もちをつく。
疲労と魔力不足とで頭が回らない。
今、この団員の腕を再生しているところなんだ。その程度の傷なら、少し待っていることはできないのだろうか。そんな反論をするのも億劫だ。騎士団に入ったならば、その程度の覚悟は持っておくべきだ。
腕が取れたわけでも、足が折れたわけでもないんだ。
『この隊の治癒師はどうかしている!』
『第三騎士団に異動……』
『今回は彼の手柄となるための戦いだった。
あんな血だらけの状態での帰還なんて格好つかない!おかげで今回の報酬が全てなくなった!』
『……』
『反論しないだなんて、珍しいこともある。
随分反省しているものだな。それから彼を逃すのは惜しいが、ヴァルド……彼も第三騎士団に異動だ』
『なぜ彼が……』
『今回の件の隊の代表としてのいわゆる巻き添えだな。第一としては手放したくないが、彼も共に異動させろとのことだ。そうすれば、またこれから報酬をだすとのことだ』
『そんな理由で彼まで第三に異動させるのか?考え直した方がいい……』
『これは散々反抗してきたお前への“報い”だそうだ。彼が第一騎士団で得られる栄誉、栄光、称賛、そして報酬。全て失うことになる……。お前が判断を見誤ったから!ルシアン・ベルネ!全て、お前のせいだ!』
『…………』
ぐちゃり。と聞こえたこの音はなんだったのだろう。もう思い出せない。でもきっと、どうでもいいものだったのだろう。
要らないというのならそれで構わない。
ぼとり、ぼとりぼとりと要らないものを全て処分していく。大切なものなんて持ち合わせていない。どうせなくなってしまうなら、持ってなくても一緒だ。
こんな理不尽に彼を――英雄である“ヴァルド”を巻き込むなんて。
彼は何も関係なかったはずだ――
____
はっと目が覚めるルシアンだ。いつのまにか眠ってしまっていたようだ。
嫌な夢を見た。いや、あの時の話だ。
ぐしゃり。と書類を握りしめる。
――じゃあ、どうすれば良かったんだ。
彼らに目の敵にされているのは分かっていた。しかし治癒の優先は重傷者からだろう。見捨てることなんてできない。
今後のことを考えるなら、彼らを優先すべきだったのだろうか。
しかし、今更考えても遅いことだ。ヴァルドは左遷されてしまったのだ。
辺りは真っ暗。書類を進めないといけないのに、何をやっているんだろう。
顔を上げ、ランプに手を伸ばすと、背中からブランケットがぱさりと落ちる。自身でかけた記憶はないけれど、誰かが来たのだろうか。
拾い上げられたそのブランケットは、また床へと戻されるのだった。
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