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第5話

5話 粉々に   「――この日は護衛の依頼の日だろう。最近また魔獣が近隣の村に姿を現している。急な討伐依頼もくるかもしれない。同じ日に大人数を割かない方がいい。魔石補給の依頼は緊急ではないから、もう少し後に回した方がいいかもしれない」 「そうっすね!交渉してきますから、ルシアンさんあとで……」 「交渉は僕がやるよ。ヴァルドくんが君のことを探していた。明日の任務の件だろう」 「……ヴァルドさんが!分かったっす!」 何か言いかけていたようだが、リオットは執務室へと向かって行った。 魔石補給の依頼の返答をするために魔石通信を取り出し、椅子に深く腰を掛ける。 この部屋で作業するようになってから、彼がよくこちらに顔を出すようになった。 僕なんかに構うより、ヴァルドのために動いた方がいい。きっと第三騎士団のためになる。 「第三騎士団の補佐です。依頼の件で――」 ここに来てからやはり以前とはいくつか違う点がある。 仰々しく、主に大物が生息する魔獣退治に出掛けていた第一騎士団とは違い、第三騎士団は近くの街や指定された村を見回るように言われているようだ。 依頼を受けたり見回り中に魔獣を見つけたら討伐することもあるが、第一騎士団と比べたら戦闘することは比較的少ない。 だから元々治癒魔法使いは第三騎士団にはいなかったのだろう。 第一を追放された治癒魔法使いには、ちょうどいい場所だ。 しかし、巻き込まれた彼――ヴァルドは? 戦闘の最前線で戦っていた彼は、どう思っているのだろう。第一騎士団で手に入れた栄光や名誉は、第三騎士団で再び手に入れることはできない。 大きな討伐は第一騎士団の手柄にし、名誉としたいのだろう。あそこは、そういう場所だった。 以前、彼の英雄としての孤高の戦いを記録した本が出たが、瞬く間に売れたそうだ。本人の名前は記されていないが、ヴァルドのことだろうと街中では噂になっていたようだ。 大人だけではなく、子供たちにも読まれているらしい。 彼は脚色しすぎだと言っていたけれど。 物語の演出としては確かに大袈裟ではあったが、内容は大方間違ってはいないと読んでみてそう思った。 彼は――ヴァルドはもっと上に登りつめて、国や民の憧れとなるべき人間だった。 誰かの救いとなる存在だったんじゃないか。と。 「……」 通信終わり。予定通りの日程で了承してもらえた。魔石通信をポケットへとしまう。 今できることは、彼の望みに対して助力すること。 しかしそれも、罪の意識から逃れたいだけの、勝手な自己満足なのかもしれないな。 ____     「ルシアンさん……ここに住むんですか?」 書類の山に埋もれた治癒師を見つけたリオットは、開口一番そう問いかける。 その眼差しは否定して欲しいといった表情だった。 「うん」 「じ、冗談で言ったんですけど……もっと日当たりのいい場所とかあるじゃないっすか。この部屋、鍵もないし……。小部屋も団員の部屋よりどう見ても狭いっすよ」 「誰も使わないならどこにしようと構わないだろう」 「誰も選ばないんですよ!今なら空いてる部屋がたくさんあるのに」 「優秀な団員がそのうち入る。彼らが使えばいいと思うよ」 「あのですね……」 リオットは初めて会った時からずっと、ルシアンについて知りたいと思っていた。 しかし、彼はなかなか踏み込ませてくれないようだった。 少し一緒にいただけでも分かる。 彼はとても優秀な人物だ。ヴァルドだけでは手が届かないところまで、静かに助力してくれている。彼のおかげでここまで来られたと言っても過言ではない。 しかし、彼だけが自身の力を認めていないような、自分自身を大切にしていないような。そんな気がしていた。 自身の隣の部屋が空いている。日当たりも良くここよりも綺麗な部屋だ。きっとそちらを選んだ方がいい。選んで欲しい。そう伝えたかったが、今の彼が頷くことはないだろう。 「ルシアンさんは、どうして……」 その時魔石通信が強く光を灯す。緊急の連絡かもしれない。通信を受ける前にその治癒師に目を向ける。 「あ……あとで、また!」 ルシアンは返事をする間もなく、バタバタと部屋を出ていく彼の姿を見送るのだった。 そして埋もれた書類の中で小さく首を傾げる。彼がわざわざここに訪れた理由が、結局分からないままだからだ。 ——————   「鍛冶職人ザナック。第三騎士団に来てくれるとはな」 執務室にてヴァルドは再び書類を眺める。 それは意外だといった表情だ。 「住み込みで働ける場所を探していて、さらにヴァルドくんの戦いが記録された本を読んでいるという情報を手に入れてね。ヴァルドくんの名前を出したら二つ返事で了承してくれたよ」 「あの本を読んでいたのか。脚色が過ぎるんだがな……」 「そんなことはないよ。でも、これで修復作業も今よりもっとペースよく進むと思う」 通常業務の合間に団員たちだけで修復を進めるのは、やはり限界がある。専門の者が加われば、以前よりも状況は良くなるだろう。 「ザナックが使う作業小屋の修復はまだ終わってないようだな。作業ペースは見直したはずだが……もう一度確認してみるか」 依然として修復が進まない場所がある。 これはもう、修復作業に手をつけていない人物がいると言っていいだろう。 未だ、第三騎士団に異なる動きをする者がいる。 「君はこの後、護衛を任されているだろう。そっちは僕に任せてよ」 明らかに“彼ら”がいるチームの修復が進んでいない。こんなわかりやすく作業を進めなければ、書類をいくつか照らし合わせれば判明することだ。一体どういうつもりなのだろうか。 ルシアンは以前見た書類を思い出していたが、余計なことは言わない方がいいと沈黙していた。こんなことでヴァルドの手を煩わせるわけにはいかないだろう。 彼のやるべきことは、他にある。 ヴァルドは一瞬、返答に時間を置いていた。 ルシアンに任せれば、状況が好転するだろう。しかしこの後、護衛の任務に就かなくてはいけないのも事実だ。 彼がずっと尽力してくれているのは分かっていた。とても頼りになる男だ。 しかし何かに囚われているような、どこか空虚な様子を感じ取っていた。 「……時間がないな。頼む」 「それ以外に選択肢はないだろ」 ルシアンは安心させるように小さく微笑む。 心の底から頼りたい、しかし。 その笑みには、粉々に砕けて壊れてしまうような。そんな様子を感じていた。 __ 第三騎士団の修復が進んでいない場所へと1人、赴くことにしたルシアン。 さくさくと足を踏み入れるその作業小屋への道は、雑草が生い茂っていて、小屋自体に修復された様子は見受けられなかった。 扉に手をかけて、立て付けの悪い扉を開く。 埃どころか泥だらけ。壁は腐敗し、いつ使ったのかもわからない作業道具が散らかっている。 こんなところに人は呼べないな。 いっそこれは壊して、1から作り直した方がいいかも知れない。ヴァルドという憧れの象徴がいたとしても、ザナックは帰ってしまうかも知れない。そんな場所だ。 しかし今回、ここに訪れた目的は別にある。 中へ一歩踏み入れた瞬間、背後から打撃が振り下ろされる――  

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