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第7話
7話 反抗者
振り下ろされたその木材は、ルシアンの身体に直撃する前にバチンと反射し、持ち主の手から弾き飛ばされ、茂みの中へと落ちていった。
「――殺す気かい?」
「け、結界……っ!」
振り向くと思っていた通りの、第三騎士団の団員の姿。名簿の24ページ目にいた人物だ。
名前までは興味がないのでルシアンの頭には入っていない。
「殺しはやめておいた方がいい。そんなことが起こったと知られたら、取り返しのつかないことになる。第三騎士団の評判はこれ以上落としたくない」
「評判なんか落ちてしまえばいい!くそっ!
こっちのが簡単だと思ったのに!」
その発言に、やはり本命はヴァルドの方だったのだろうと推測する。修復作業が進まないことに疑問に思ったヴァルドがここに来るのを、身を潜めて待っていたのだろう。
庁舎内では常に気配を隠していた彼らだ。
そうすると修復作業中の現場を見に来るしかない。
「僕はね、今回の目的が知りたいんだ。
それによって君の処遇は変わる。今後ヴァルドくんに忠誠を誓うのなら、今回の件はなかったことにしてもいい。第三騎士団には、まだまだ人手が足りていないからね」
まだ組織として回りきっていないとはいえ、ずっと気配を消してほとんど悟られずにいたこと。能力の高さ。騎士団長を狙おうとしていた度胸。上手く扱えるなら、第三騎士団の駒としては使えるのではないか、と。
「忠誠なんか誰が誓うか!おれはな、こんな汚えところでも、大して仕事をしない楽な騎士団に入れて金がもらえたんだ!
なのに……ヴァルドが来てから朝から晩まで仕事仕事仕事。何もしなくてもずっとバレなかったのに!」
「……」
これは、彼は要らないという結論でいいだろうか。
その前に幻覚魔法の実験に使ってみてもいいかもしれないけれど、まだ完成には至っていない。失敗したら、忠誠を誓わない廃人が残るだけだ。
「……反抗しているのは君だけ?」
「他にいると思うのか?」
辺りを見回すが、近くには見当たらないし、魔力の気配も感じない。
背後の小屋の中も先ほど覗いた時は誰もいなかった。もう1人一緒にいると思っていたけど……。
そこで脳内に少し疑問が浮かぶ。
本当に彼はこんなことでヴァルドを出し抜けると思っていたのか。それともただ反抗したかっただけなのか。どちらにしてもヴァルドがここに来なかったことで、彼らの計画は全て失敗に――
「――本当は全部、お前のせいだろ?」
「……っ」
一瞬身体が硬直し、結界が揺らぐ。
ぬるり。と結界内に手が侵入していた。
片手で服を掴まれる。そのまま小屋の中へと突き飛ばされ、地面に身体を打ちつけていた。
「う……っ」
倒れ込んだ拍子に棚にぶつかり、小屋の中に錆びついた鎖や使い古された道具がバラバラと辺りに散らばる。
小屋の入り口を封じるように2人の男が立っていた。
突然目の前に現れた騎士団員の手にあるのは、姿を消せる魔石。遮光石だ。だが、持ち主の肌を焼くほどの熱を発し、静止していなければ使えない。かなり使用条件が限られるものだ。
それを持ったまま、ずっと近くにいたのか。
その間に結界の解除を試みていた。
時間稼ぎされていた……っ!
「言っておくが、最初から殺す気はねぇよ。呼び出したかったのはお前の方だ」
2人は小屋の中へと足を踏み入れてくる。上体を起こして反撃を試みるが、背や腕がズキリと痛む。湿った藁の感触がぐちゃりと手に伝わった。
「抑えてろ。もう二度と口答えできないくらい戦意喪失させてやるよ」
男は立ち上がろうとするルシアンの身体に乗り上げる。
「ぅ、……っ」
肺を押し潰され喉の奥から呼気が漏れ出す。
そのまま両腕を頭上で押さえつけられ、男は見下すように笑みを浮かべた。
もう1人の男は縄の感触を楽しむように、握りしめたまま近寄る。
『これは散々反抗してきたお前への“報い”だ』
ギシリと心臓が音を立てる。
あの時の声が、まだ、聞こえ――
「――何をしている……?」
扉の前には、赤髪の青年。その瞳には怒りを宿し、ゆらりと燃える蒼い炎を身にまとう――リオットの姿だった。
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