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第9話
9話 餌やり
ふわりとルシアンの頬に温かい風が触れ、明るい光で目が覚める。ベッドの上にいるようだ。しかし見覚えのない天井。
ぼんやりとした瞳のまま視界を部屋の中へと向ける。自分の部屋ではない。見覚えのない机と椅子にソファー。クッションが床に放り出され、いくつか雑誌が散らばっている。
部屋の中を観察していると、足音と共に扉が開く。
「……!良かった……」
やってきたのは安心した表情を見せるリオットだ。両手で持ったトレーの上には小さな土鍋が置かれていた。
「……ここ、君の部屋?」
「そうです。アンタの部屋狭いのでこっちに連れてきました。あと勝手に着替えさせました。ドロドロだったので……」
「ありがとう。でもこれ……」
ゆっくりと腕を持ち上げるが、サイズが少し大きいようだ。袖は指先の方しか見えない。
「部屋を勝手に漁るわけにもいかなかったので!俺のですよ。我慢して欲しいっすね」
「平気だよ。それよりベッド占領して悪かったね」
「ちょっと!どこ行こうと……」
「あ、……れ?」
身体を起き上がらせてベッドから降りようとしたルシアンだが、くらりと世界が回り、力が抜けたようにぱたりとベッドへと再び倒れ込む。
「治癒魔法かけました。軽い傷を治すくらいなら自分も使えるんでね。ルシアンさんみたいに斬られた腕を元通りに再生とかは無理ですけど。でも治癒魔法あまり慣れてないんで……動けないのは多分そのせいですね!」
「えぇ……」
治癒魔法は体内エネルギーを消費する代わりに、すぐに傷口を再生させるものだ。いくつかの傷は治ったが、今ルシアンの体内エネルギーは空っぽ寸前といったところだ。
傷の痛みで動けないのと、体内エネルギーの枯渇で動けないのは一体どちらが良いのか、学ぶことができそうだ……。
「というか食事、足りてないのが原因ですよね」
「……」
ベッドで横になったまま最近の食事を思い出す。あまり食欲もなかったし、食べたとしても簡易食ばかり。まともなものを食べたとは言えない。そのせいかもしれない。
こんなに動けないなんて二度とごめんだ。今後ちゃんと食べることを頭に刻む。
「まあどちらにしても、しばらくここにいてもらいますからね。はい、食事。食べやすいのもらってきたっす!」
「しばらくって……」
リオットはルシアンの身体を起き上がらせて、
土鍋の置かれたトレーを持ちベッド近くの椅子に腰をかける。
パカリと蓋を開けると、中には薬草粥。香りとともに湯気が一気に立ち上る。木製スプーンで軽く混ぜて一口掬うと、ルシアンの口元へと運ぶ。
「はい。あーん」
「……っ。動物の餌やりじゃないんだ。自分で食べられる」
「アンタの言うことは聞かないって言ったでしょ。10回。ありますからね」
軽く睨まれたところで怖くないと言ったように、リオットはスプーンをぐいぐいと近付ける。
「う……」
それを言われてしまったら、言うことを聞くしかない。仕方なく口を開くと、薬草粥が運ばれ、こくりと喉を通っていった。
「へへっ。いいですね、これ!」
「……。そんなことより、ザナックくんの作業部屋の件も改めて考えなければならないし、それに彼らはちゃんと生きて……んぅ」
笑顔のリオットに再び、口の中に薬草粥を突っ込まれる。
「全部食べ終わったら、話してあげますよ。はい、あーん」
「……」
食事が終わるまで、本当に話を聞けないようだ。
慣れない食事の取り方に恥ずかしい気持ちを隠しきれないまま、ルシアンは大人しく口を開けて、楽しそうな彼を仕方なく受け入れるのだった。
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